はじめての宝物09S


怪我を手当して、1晩が過ぎたけれど、まだなまえは目を覚まさない。
鍛冶屋はツケのある裏の世界の人間を集めて片付けをさせていた。
もう大方片付いて、家の立て直し作業も進んでいた。

「なまえちゃん、起きないね」

俺と、それから鍛冶屋の娘が隣に座ってなまえを看ている。

「ああ」
「お兄ちゃん、寝ないの?」
「俺は、幼少の頃から鍛錬を……」
「何度も聞いたよ………」

時折眉を寄せて、苦しそうにすることがある。
起きたらきっと、そういうもの全て押し込んで、大したことないと言うのだろう。

「でも、起きた時にお兄ちゃんが元気なかったら、なまえちゃんが心配するよ」
「…………なまえが?」
「うん」
「そうだそうだ!」

どかり、と反対の隣に鍛冶屋が座る。
傷に響いたらどうしてくれる殺すぞ。
そんな気配が出ていたらしく、鍛冶屋は小さくなって謝った。

「なんだ、刀なら貰うぞ」
「それは構わねえよ、なまえちゃんに、もらって欲しいんだ」
「はじめから渡しておけばこんな大事にはならずに済んだものを……」
「ははは、そうかもな」

いやに風通しの良くなった家。
血なまぐさい庭。
使い物にならなくなった売り物。
散々だ。

「あ!」
「ん?」
「わかったよ、お兄ちゃん!」
「は?」
「プレゼントする理由!」

唐突だ。
まあ、子供はいつも唐突か。
何を言うのかと思えば。

「記念日!」
「……はっ!? まさか、ソニックくん。出会った記念日に刀を!!? 縁起悪いんじゃないか!? 切り裂くものだし」
「いや、」
「それにしても発想自体はロマンチックだな! 応援してるぞ! でも刀を差し上げる事は俺から伝えさせてくださいお願いします!」
「きゃー!」
「………」

なんなんだこいつらは。
思うが、なまえを手当してすぐ、部屋を出たらふたりして泣きそうな顔をしていたことを思い出す。
おちゃらけているように見えるがなにがしたいのかはだいたいわかっていた。
朝には騒ぎ出して、忙しく家と外とを行き来していた。
薄情な、と一瞬思うが、鍛冶屋は心外そうに、「だって君が心配するんだろう」と言った。
ついでに、ひどい顔だと笑われた。
それこそ心外ではあった、が。
確かに、それもそうかもしれなかった。
別に、大勢に心配されずとも。
だが、俺を元気づけようという動きも、心配でなくてなんだというのだろう。

「まあ俺はもうちょっと仕事するから、あれでも食って、少しくらい寝たらどうだ?」
「……あれ?」

鍛冶屋は去っていくが。
あれとは一体。

「あれ?」
「んーー?」

隣の娘に問うが信じられないくらい首をかしげている。
沈黙、その後。

「あーーーー! あれだーーーー!!!!」

立ち上がると、「あーーー」と言いながら走っていって。
ほどなくまた同じ様に帰って来た。
手には、皿とフォーク。
パンケーキからは湯気が出ている。

「はい! これ!」
「……これは?」
「パンケーキ! なまえちゃんと作ったよ! 昨日の朝ご飯! どうぞ!」

受け取る。
にかり、と笑うと、「わたしもお手伝いしてくる!」とどこかへ走っていった。
子供にしては、随分としっかりしている。
それはさておき。
一口食べてみる。
ああ、さすがに、作られたのが昨日であることもあって、ものすごくうまいとは言えないけれど。
ふわりと暖かい。
今まで、どこもかしこもずきずきと痛んで、ひどいものだったが。
和らいでいく。
言う通りにするのは癪だが、そうだな。
俺も少しだけ眠ろう。
俺よりもずっと深手のなまえに心配されるなど、ばかばかしいにもほどがある。


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20160318:もうちょっと。今の話も最後に入れたい。
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