はじめての宝物08S


がれきに挟まっている鍛冶屋が先に視界に入る。
よく生きていたものだ。

「ソ、ソニックくん!」

鍛冶屋が呼ぶ、切羽詰まった声だった。
この鍛冶屋も弱くはない。大勢かと思えば、その大勢は勝手にそこいらに倒れている。
中央には、あの刀を持った男が一人。
あいつか。
おそらく、巻き添えにしたのだろう。
素振りしただけで山を削る刀だ。

「む、娘は!? 来る途中に見なかったか!!?」
「何……? いや、なまえが来ている。大丈夫だろう」
「なまえちゃん……?」

男からは、視線を外さない。
俺もまた刀を抜く。
あまり悠長に話をしている場合ではない。

「ははあ、強そうなのが来たなあ。おにーさん名前は?」
「最速最強の忍者。音速のソニック」
「ぶっはははは! いいぞー、その痛い感じ」
「黙れ」

勝負は一瞬でつく。
否、一瞬でつけなければいけない。
できるだけ、振り回させないように。
地面を蹴って、距離を詰める。
ふ、と目の前で止まれば、わかりやすいくらいに表情が曇る。

「はあ!?」
「遅い」

男はその視覚情報に頼るまま刀を振る。
残念だが。
そこに俺はいない。

「はははは! なにやってんの!」

ゆらり、と切り裂かれたのは俺の残像。

「それはお前だ、のろま野郎」

振り返る速度もあまりにゆっくりで、相手をするのもばからしい。
真っ二つ、とはいかなかったが、かなり深く入った。
放っておけばそのうち死ぬだろう。
男の手から滑り落ちた刀は、さくりと地面に刺さる。

「……これで全部か?」
「あ、ああ、いや、娘が!!!」

近付く足音。
これは敵ではない。

「……ようやく来たか」

娘は「お父さん!」と呼び、二人して安心したようで気が抜けた笑顔を浮かべていた。
案の定弱い敵だった。
おもしろくもない。
なまえはゆっくりとこちらに近づき、抱えていた娘を下ろすと、娘は鍛冶屋の元へ駆けていった。
俺もまた、がれきをどかしてやろうと鍛冶屋の元へ歩いていく。
なまえは、それに続かなかったようだ。
あとから聞けば、全力で嫌な予感がしていたらしいが、これは、なまえがその感覚に名前を付けていなかった頃の話だ。
終幕を迎えたと思っていた。

「っ、ソニック!!」

呼ばれて振り返る、やけに必死のなまえの姿をどうにか捉えて、俺もまた名前を呼ぶ。
背後の光景は、とんでもないものだった。

「なまえ……!!?」

浮遊する、数々の武器。
それは俺に向かうはずが、なまえがその背ですべてを受け切る。
こんな時くらい。
声の一つも上げたらいいと思うが、なまえはただただ、耐えていた。
歯を食いしばって、声の一つも漏らさない。

「……」

なまえは倒れない。
ばかなことを。
まだ、戦うつもりなのだろうか。

「ははははははは! ざまあねえな! 最強の忍者さんよ!!」
「貴様よくも……!!」

ただののろまかと思っていたが。

「別にそんなもんに頼らなくても、そーいや、俺、強いんだった……」

刀が浮く。なるほどこれは、超能力だ。
にわかには信じ難いが、力を使って傷口を無理やり塞いでいる、というところだろうか。
なまえの背からは、血がにじんでいる。

「なまえちゃん!」

名前を呼ばれて、ゆらり、と前に倒れる。

「待っていろ、すぐに手当してやる」

ひどく不快だ。
油断した俺にも、この薄ら笑いを浮かべる男にも。

「女に庇われて、なあ」

笑っている。
早く殺そう。

「なまえ」

ちらりと、なまえを見る。
瞬間、体の自由が利かなくなる。
からん、と刀が手から離れて。

「あーあ。ほんと、ざまあないって感じ?」

しかし、隣でゆらり、と、何かが動く気配。
やつの超能力ではない。
なまえが、まるで何かに呼ばれるように、自分の背に刺さっていた刀を一本抜く。
その1振りは、言うまでもなく。
しかし。
滴る血が、不安感を煽る。
無理するな。
必ず俺が片付ける。
そんなに簡単に死ぬわけはない。
けれど、無理をするなら俺がする。
だから。

「ん……?」
「おい、なまえ、なにしてる……!!? よせ!!」

戦わなくていい。
それなのに、俺は男に、そのまま木に叩きつけられて、あっけなく戦線からはずされる。
構える、なまえ。
手には、あの刀。
ああ。
こんなこと、痛々しくて見ていられないのに。
この安心感はなんだ。
刀がなまえに力を与えているような、
なまえが刀に力を与えているような。
もう大丈夫なんて思いたくはないのに、そう思わずにいられない。

「んー、なんだ、この感じ……」

踏み出す。
空気が変わる。
あいつが感じたものはおそらく恐怖なのだろう。
男がば、となまえへ手をかざすが、そこになまえはいない。
いくら超能力とはいえ、見えない相手は捉えられないだろう。
俺よりは遅い。
それでも、十分だ。
特別な力に胡座をかいた輩に勝つ程度なら。
背後に回る、刀を振り下ろす。
それだけだった。

「なまえちゃん……!」

ぴた。
刀は男の肩口で止まるが、男は程なく、殺されるという恐怖で、泡を吹いて倒れた。
なまえは何も切っていない。

「こんなことが……」

そんなことは当然だ。
当然だが、俺は急いでなまえの元へ。
案の定ゆらりと崩れるなまえを支えて。
その背中はあまりにも痛々しい。

「……」

何を言えばいいのだろう。
こんな姿はみていられなくて、かわってやれたらどんなにいいかと思うのに。
血を流しているのはなまえで。

「ばかか、お前は……」

力なくそれだけ言って、工房の無事な部屋へ上がり込んだ。
なまえは、今、何を守ったのだろうか。

「ちょっとまて! 俺は!?」
「あとから助けてやる」

何を、守ったのだろうか。


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20160318:はじめてやったけど難しいものです……
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