はじめての宝物07S


なまえの声が、俺を呼ぶ。

「ソニック」

声をかけられ、そちらを見るが、なんだか、ずっとは見ていられなかった。
すぐに目をそらすとどうにかいつも通りにと言葉を探す。

「……どうした?」
「ううん。ちょっと町へ買い物に行ってくるね」
「……頼まれたのか?」
「あー、あの子が、一緒に行こうって言ってくれて」

朝飯はうまく出来ただろうか。
今度は何を作るのだろう。
どうやら、要件はそれだけらしい。
なまえはじっと俺が返事をするのを待っている。
俺もついていこうか、一瞬迷うが、やめておく。
いい言葉は見つからなかった。

「なるほどな……」
「だから、行ってくるね」
「……」

行けばいい。
必ず帰ってくるのなら。
こんなことを考えているのに、置いていく、なんてことができるのだろうか。
まだ、そう決めた訳では無いが、そう決めたとして、俺は。

「ソニック?」

ぱちり、とこちらに引き戻すようになまえが呼ぶ。
そう言えば、俺はたったひとりの問題のようになまえのことを考えていたけれど、肝心のなまえは、どう考えているのか、聞いたことがなかった。
なまえはなんと答えるだろうか。
なまえがもし、ここを好きだと言ったなら、俺は。

「なまえ、お前は、」

ふわり、となまえの両腕が体を包む。

「ソニック」

呼ばれる名前に、涙が出そうになる。

「泣かないで」

泣いてなどいなかった。
ひとつずつ、ひとつずつ、絡まった糸が解けていくような感覚。
こうしたら、良かったのか。
そうして俺も、こうして欲しかった。
もう手遅れだ。
ここはあまりに居心地が良くて、俺はここが好きで、こいつもそうだといいと思っている。
好いて欲しいのだ、俺はなまえに、俺のことを。
特別で唯一で、そんな人間だと、思われたくて、思っていて。
つまり。俺は、やっぱり。

「なまえ」
「うん」
「俺は、」

お前のことが好きだ。
言葉は、声になることはなく。
また俺の中に戻ってきてしまった。
突然の轟音にも、俺達の対処は迅速だった。
かなりの大事である気がしたが、なんとなく、俺には何が起きているのかわかる。
ただ、何かが倒れる音だけが聞こえる。
おそらく、あの刀、が。

「今のは?」
「わからん、が」
「うん、音のした方向って」
「ああ。なまえ、お前は」

置いていこうと思った。
どうせ下らないチンピラにでも襲われているのだろう。大して時間がかかる気もしない。
いつもなら、なまえはじっと俺の指示を待つけれど。

「ソニック。私も後で行くから、急いであげて」

意思のある言葉に驚く。
ここに来て、あの娘に影響されているのだろう。
それは、俺には成長したように見えた。
1人でも立って歩ける。
そんな人間になりつつあるのだ。
いや、本当はもう、1人でもいいのかもしれない。

「ああ、武器はあるな?」
「大丈夫」
「敵は1人とは限らん、気をつけろよ」
「ソニックも」

走り出したスピードが全然違う。
容姿も性別も。選ぶ言葉も。
お互いに考えていることも。
これが済んだら、あいつの話を聞いてみよう。
なんでか、何も聞かないことで気をきかせている振りをしていた、けれど、怖かっただけだ。その違いを受け入れられるのか。受け入れてもらえるのか。本当のところの気持ち。そんな類のものの、本当を知るのが怖かった。
それがわかれば、もう怖くはない。
これが片付いたら、なまえの思う遊びに付き合って、ゆっくり話をしようと思う。
だから。

「邪魔はさせん」

大した相手ではない。
早急に片付けてしまおう。


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20160317:鼻水がやばい。花粉で。
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