はじめての宝物06S


日は登りきっていた。
なんとなく戻れなくて、なんとなくずっと外に出ていた。
なまえは、どんな顔をしているだろうか。
考えながら、ある場所へ足が向かう。
たどり着いたのは、おかしな形をした崖だ。
その崖は、あまりにも不自然に生成されていて、崖と言えるかどうかも怪しいところであった。
正確には、生成されたというのは間違いで、その崖は、まるでなにかに切り裂かれたように出来ていた。
まるで、ではなく切り裂いたのだが。
あの刀が、だ。
その日は、あの鍛冶屋がこの刀を使ってみるかと俺に言った。
しかし、場所を移動しなければと、こんなところまで来て。
大袈裟だと笑ったが、鍛冶屋があまりに真剣なので俺も真剣にこの刀に向かった。
すらりと刀を抜いて、軽く振った、その一瞬あと。
地面はすっぱりと斬られ、やたら真っ直ぐな崖の出来上がりだ。
切った大地は反対側に倒れ、丘のようになっている。そこだけ、木がない。
これが、扱えない、という状態らしい。
意図せぬものまで切ってしまう刀。
主人をあざ笑うようにも、主人に愛されたいようにも見える。
刀ふぜいが生意気な、そう思うよりも前に、ここでようやく、いつも隣にいるあの女の顔が浮かぶ。
これは、あいつだ。
つまり、俺はあいつを扱いきれていないわけで。
いや、それに関してはなまえだって俺を扱えているとは言えないのだから同じことだ。
悔しくはないしむかついてもいない。
本当だ。

「やっぱりダメか」

鍛冶屋のこの言葉の方がむかついた。
しかし、とんでもない兵器を生み出したものだと思う。
力などなくても、知識などなくても、1振りで街を破壊できる。
こんなに使い勝手の悪い刀もないと突き返し、なまえがあれを使いこなす姿を想像した。
驚くほどに良く似合う。
なんとしてでも、鍛冶屋を説得しなければ。
なまえには使えないと頭から決めつけているが、なまえがそこそこの使い手だとわかれば話は別のはず。
あるいは、無理やり奪って振るわせてみればいい。
するとわかるはずだ、俺がこれだけ押す理由が。
なまえに、と言い続ける理由が。

「………ん?」

はて、俺はもっと別のことで悩んでいたはずだが。
なまえがあの刀を使いこなす姿を想像してにやけているとは一体どういうことだ?

「…………………」

これは俺が、やりたくてやっていることだ。
なまえのためと言いながらも、本当はすべて俺の為だったのか?
とうとうわからなくなってきたが、わかるのは、あいつはやはり俺の体の一部のようなもので俺と同じかそれ以上に大切なものだと言うこと。
ふと、そんな折。
一つの気配が近づいてくる。
一瞬警戒して感覚を研ぎ澄ますが、聞き覚えのある足音だ。
それに、まっすぐこちらに向かってくる。
行き先は伝えていない。
初めて来る場所のはずだ。
けれど、なまえには関係ないのだろう。
見つけられると信じて疑わない。

がさり、

目を閉じていてもわかる。

「ソニック」

これ以上、俺にどうしろと言うのだろう。


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20160316:どうにでもできるはず
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