はじめての宝物05S


外へ出る途中、鍛冶屋の娘に捕まった。
なまえと部屋で朝飯の打ち合わせをしたあと自分の部屋に帰ったと思っていたが。
まあ打ち合わせと言っても好きな飯の話を延々としていただけで、結局朝飯の献立は決まらなかったようだ。

「お兄ちゃん、おでかけ?」
「ああ」
「なまえちゃんひとりにしちゃうの?」
「…………あいつは四六時中俺がついていなければならないほど子供ではない」
「でも、なまえちゃんね」
「なんだ」

鍛冶屋の娘は言う。

「お兄ちゃんと遊びたいって言ってたよ」
「………なんだそれは」
「あのね、町に遊びにいったり、お買い物したり、一緒にでかけたり、ごはんたべたり! だよ!」
「本当になまえが言ったのか?」
「言ったよ! そういうのいいなあって! なまえちゃんさみしそうだったよ! なまえちゃん、お兄ちゃんのこと……」

知っている。
何も言わないでいると、また違うことを聞いてきた。

「帰ってくる?」
「ああ」
「ほんと?」
「ここにはなまえの刀を選びに来たからな」
「あの刀?」
「そうだ」
「あのこ、なまえちゃんと似てるよね」
「……わかるか?」
「うん。なまえちゃんにプレゼントするの?」
「そのつもりだ」
「なまえちゃんお誕生日なの?」
「………いや?」
「なまえちゃんお誕生日いつ?」
「誕生日、か………、覚えていないかもしれないな。あいつ自身も」
「………?」
「早く寝ろ、なまえと朝飯を作るんだろう」
「うん」

ぽん、と頭に手を置いて、工房から出る。
遊ぶ。
誕生日。
プレゼント。
なまえはやはり、あの刀と似ている。
あんなに危なっかしくもないし、尖ってもいないが。
……。
いや、もしかしたら。
なまえをたったひとりにしたらああなるのではないだろうか。
強さを持て余して、拠り所もなくて。
近付くことも拒絶することも知らない。
そう思うと、やはり納得だ。
なまえはあの刀を使えるだろう。
それから、気にもしたことがなかったが、誕生日。
聞いたことも無い。
覚えていても、忘れたというかもしれない。
誕生日といえば、普通の恋人ならば知っていて当然だろう。
それを知らずに、興味すら、今の今まで出なかった俺は、やはり普通とは違うのか、それとも、思ったよりも、なまえのことを知らないのだろうか。
最後に。

「遊ぶ、」

か。
遊ぶ、遊ぶ………。
思い出す、あいつは、町に遊びにいったり、買い物したり、一緒にでかけたり、ごはんたべたりと言った。
どれがどう違うのかはいまいちわからない。
それでも確かに。
そんなのもいいのかもしれない。そう思えた。
なまえも、そう思っているのだろうか。
とはいえ、ものをやるより難しく思える。
あまり想像ができない、なまえは笑っているだろうか、今は難しいだろうか。
空を見上げる。
朝、帰ったら、なまえが朝飯を作って待っているのだろうか。
それをまたうまいと言ったら、あいつは笑うだろう。
照れくさい話だ。
それはいい。
けれど、料理にのめり込むという事は、また俺から離れて……。
はたして。
俺が心配しているのはこんなことなのか。
にえきらない。
この感情を表現しきれない。
お前は一体何なんだ。
その問をするのも、答えるのも自分。


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20160316:なんなんだってね。
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