はじめての宝物04S


並べられた料理に、なまえは娘にへらりと笑いかけて。娘もまた笑っていた。
もしかしたら、子供とか裏表のない奴を、なまえはもともと好きなのかもしれなかった。
逆に、相対している奴が裏しかないような人間で、例えばなまえを手篭めにしようと近づくと、こいつはどうやら、それがわかるらしかった。
一度、一度だけなまえをそういう任務に連れていったことがあったが、帰ってくるなり食べたものを全てはいていた。
なにかトラウマでもありそうな挙動だが、なまえは覚えていない、苦手なだけだと言って倒れた。
そういえばその時はただ慌てるだけだった。
並べられる夕食を見ながら思い出すことでもないが、妙なところで弱いやつだ。

「お、なんだよ今日はご馳走だなァ!」
「あ、おとーさん。今日はなまえちゃんが手伝ってくれたんだよ! なまえちゃんすごいんだよ! 1回見たらなんでもできるの!」
「へー! そりゃすごいなあ!」

どきりとしたのがわかる。
相変わらずだ。
おそらくだが、なまえは、本当はいろいろなものが見たいのだろうと思う。
本当はいろいろやってみたいのだろう。
きっと幼い頃のなまえは、自分がいろいろと見て身につけることで人を傷つけることがあるなんて、思いもしなかったのだろう。忍びの技も動きも身につけようとしたのは、憧れや、それを見せたい相手がいたからじゃないのか。
今はそれができるはずだが、やらないのは。
俺が険しい顔して、隣にいるからだろうか。

「じゃあ早速いただこうかね」
「いただきます!」

こんなとき。

「「いただきます」」

ふ、と声が揃う。
親子は目を見合わせて笑っていて、なまえもきょとんとした後に、ふわりと笑った。
仲がいい、と言うには安直な気もしたが、やはり、時間は、常にそこを流れていたのだと感じる。
示し合わさなくても動きに合わせられる、言いたいこともなんとなくわかる。
それが最近なんとなくうまくいっていないのは、なんてことない、俺がなまえに対して悩んでいるからだ。
そして、その分野に関して、なまえには知識がない。
だから、どうしていいかわからないのだ。
お互いに。
ここまでわかっても、ただ俺の感情の奥底にあるものが不明瞭だ。
霧のようなものが全体を覆って、なんだか悪くなさそうなものではあるけれど。
それだけしかわからない。
俺もまだ修行が足らないということか。
黙々と飯を食べていたが、なまえがちらちらとこちらを伺っている。
なんだ?

「このお味噌汁、なまえちゃんが作ったんだよ!」
「へー、これ旨いなあ。な、ソニックくん」
「こっちもおいしいよ、お兄ちゃん!」
「ああ。そうだな」
「おいしいよねー?」
「うまいよなーー?」

ああ、そうか。
言わせたいことはわかった。
ちらりと、なまえをみると、なんだかおかしなやりとりだなあくらいにしか思っていない、不思議そうな顔をしていた。
言ってやる。
こんなことで、嬉しいだろうか。半信半疑であったのは事実。

「……うまい」

言葉に、なまえが目を見開いて、そのあと穏やかに穏やかにー、

「よかった」

簡単だ。
やはり、こいつを喜ばせることなんて簡単だ。
わざわざあの刀でなくてもいい。
ただそこに気持ちが伴っていたのなら、別にいいのだろう。
嬉しそうな泣きそうな笑顔。
満たされたりはしないけど、少し近い、そんな気がした。
無性にその顔に触れたくなって手を伸ばそうとするが邪魔が入る。
そう言えば、いつものふたりの空間ではなかったのだった。
鍛冶屋は笑い転げているし、娘はなまえにくっついている。
まったく。
笑い過ぎである。
なまえも、楽しそうで何よりだ。
刀は必ず譲り受けるが………。
そんなことを考えていると、ぽつり、となまえが言った。
ぽつり、という表現が丁度いいのに、妙に存在感を放っていた。
ここにいる全員がそれを聞いていた。

「明日も、料理作ってもいいかなあ……」

それは。
どういう類のものだっただろう。
やりたいことを、昨日今日あったばかりの人間に素直に言うのは珍しいことだった。
なんだか、ずっとのびのびとして、自由そうだ。
俺の隣にちょこんと座っているよりずっと。
自由そうで、楽しそうで。
やはり、もしかしたら。
なまえはここにおいて行ってやる方がいいのかもしれない。
その時の俺は、なまえがどうして料理をするなんて言い出したのか、理由のすべてが俺であることなど考えもせずに、そんな残酷なことを考えていた。


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20160315:暗めかよー勘弁してくれよーって感じですね
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