はじめての宝物03S


帰ってくると、なまえは鍛冶屋の娘と遊んでいた。
ままごとらしいが、そう言えば、なまえはそんな遊びをしたことがあるのだろうか。
兄弟はいたらしいがどうなのだろう。

「……」

それにしても、楽しそうだ。
今、あいつは何を思ってあの娘と一緒に遊んでいるのだろう。
例えば本心からここにいたいと思ったとしたら、あいつはそれを、俺に言うだろうか?

「あの、聞いてるかい。ソニックくん」
「ああ。あの刀、譲ってくれ」
「だから、無理だって、あれは……」
「心配ない」
「根拠がない」
「そのへんの木でも切らせてみたらいいだろう。すぐにわかる」
「ダメに決まってらあ。ソニックくんに触らせた時も、ずいぶん山肌が削れたの忘れたかい。なまえちゃんはどっからどう見たって剣士じゃあないし、身の丈に合わないものを持たせる方が危ないこともある」
「危なくない、それに、あれは、あの刀は、あいつだ」
「なんだって?」
「みればわかる。よく似ているからな」
「はあ?」

茶をすする。
視界の端に、あの刀。
窓の外には、本を広げる娘となまえ。

「あ、そういえば。なんか外に出てく時、すごい勢いで目をそらされちまったんだけど、俺もしかしてなんかした?」
「ん? お前なにか作業をしていたか?」
「え、ああ、まあ」
「だからだろう」
「はあ……? さっきからさっぱりわからねえよ」
「話してやってもいいが、刀をよこせ」
「なんでだよ」
「ならば話す義理はない」
「はーーー……ほんとに好きだな、なまえちゃんのことが」
「そうだ」

そうだ。
好きだ。
こんなにさらりと言えるのに。
なんだか、日を重ねる毎に言えなくなる。
本人には、なかなか言えない。
違うのだ、好きは好きだが。
そうではない。
そうではないが、そうでなければなんだろう。
なまえに抱くこれは。
一体。
驚く鍛冶屋のことはほうって、じっと見る。
何に夢中になっているのだろう。
機械の本もあんな顔で見ているけれど。
また新しいものにはまったのだろうか。
俺に、見せに来ないだろうか。

「おい、鍛冶屋」
「んー?」
「お前から見て、なまえはどう見える」
「どうって、あ、話したら刀を諦めてくれるのかい」
「ならば答えなくてもいい」
「まあ、それは冗談にしても、まあ、みたまま、じゃないのかね。はじめてあう俺に緊張したり、娘と意気投合してみたり、大好きなアンタに怒られるのを怖がったり、びっくりするくらい、みたままじゃねえか」
「…………」
「なんだその顔………」
「お前には、俺が好かれているように見えるのか」
「いやいや逆に、好かれてないと思ってたのかって話だよ」
「好かれていないはずはないとは思うが」
「だろう」
「ああ」
「だから、そうなんじゃないのかい」
「そうじゃない」
「ええ?」
「俺が知りたいのは」

そんなことではない。
知っている。
あんな態度だ。
わかる。
嫌われてはいないし、きっと好かれている。
けれど、そうではない。
なまえは、ここしかしらないから、ここに居る。
そんな気がしてならない。
そうではなくて。
いや、隣にいるならそれでいいのか?
それなら、こんなにもやもやとするはずはなくて。
だから、そうじゃないのだ。
そんなしかたなくじゃなくて、消去法じゃなくて。
つまり、なんだ?

「チッ」
「若いねえ」

けらけらと笑う。
俺は心底面白くない。
ほどなく楽しそうに戻って来て、一緒に台所に向かう二人を無表情で見送った。

「……」

楽しそうだ。
俺だって、あいつをああして楽しませてやれたはずなのに。
体の端から、心の端から黒くなって風化していくような。
楽しそうななまえを見て、感じる気持ちは一体何か。
黒くてしかたのないこれは、きっと恐怖。
奪われたくないというどす黒い感情。
でも、さらさらと飛んでいく中にきらきらと輝くこれはなんだ。
俺はそれを見上げるように天井を仰ぐ。
なんだ。
とても綺麗なこれは、本当に俺の感情の一部なのだろうか。
何かが邪魔をして、その片鱗すら掴めなかった。

「鍛冶屋」
「ん?」
「刀を譲る気になったか?」
「ならねえ! ったく、いい刀なら他にもあるっての!」
「ない」
「ああん!?」

あれをなまえに渡したら。
なにかわかるような。
そんな気がする。


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20160314:大分余裕がない。
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