はじめての宝物02S


刀鍛冶、となれば行く場所は決まっていた。
なまえの手をひくのはいつものことで、それでも、さっきのことがあったからか、少しだけ握る力が弱い。
そんなことで、まるで繋がりすらも弱くなるような。
ひょこひょこと歩くなまえの腕を縛っておきたいような、そうではないような。
そうではない気持ちが強いが、これはなんだか、わからない。
まだ、わからなかった。
鍛冶屋へつくと、案の定なまえは知らない人間にびくびくとしていた。

「ん、あ、え、と、なまえです。忍者やってます……」
「ははははは! オーケー。なまえちゃんだな」

ずい、と手が差し出される。
なまえの手が、違う人間のそれと繋がる。
ああ、こんな。
こんなことくらいで。
たまらなく胃のあたりがむかむかする。

「……もういいだろう」
「おっと、すまんね。とりあえず、部屋を用意してあるから少し休んでくれ。商売の話はそれからにしようか」
「ああ。行くぞ、なまえ」
「うん」

そのあと、素直に俺についてくるなまえに。
優越感なんかに浸っている場合ではない。
阿呆か俺は。
手を握る力が強くなったくらいで。
こんなことで、なまえには俺しかいないのだと、そんなものに浸っている場合ではない。
なんて単純な奴だ。
下らなくて煩わしいと思うのに、こんなにも気になる。
ずっと気にしていると、どんな小さな表情の変化もわかる。

「っ」

工房に入ると、隣で、息を飲む音がした。
あまり見ない顔で、ある一点を見つめている。
見つめる先のものは、一振りの刀。

「ああ」

なんて、随分気のない一言が溢れたけれど、それは、わかっていたからだ。
それがきっと気に入ることも、なまえがそれに見惚れるだろうということも。
好きな食べ物も好きな色も、本当は知っている。
だから、それは俺にとって当然の光景だった。
その刀は。
静かに、密やかに、暖かくて冷たくて。
ただすん、とそこに存在する、その刀の有り様は、なまえによく似ていた。
ほんとうはひどく強いけれど、その力が一人ではうまく使えない所なんかが、特によく。
だからきっと。

「お、それが気になるかい?」
「え、あ、すいません」
「いやいや、いいっていいって。あれはさ、俺の最高傑作なんだ」
「最高傑作」
「そ」
「うん、確かに、とても、綺麗な刀ですね」
「そうだろ?? いやあいける口だねえなまえちゃん!! もっと近くで見てみるかい」
「っはい!」

手が。
するり、と離れた。
なんでこんなに、孤独だと感じるのだろう。
なまえとはいつも隣にいるのに。
この程度のことで。
こんな一瞬、離れたくらいで。
こんなに一瞬、俺を忘れているくらいで。
どこにも行き場のない、守るもののわからなくなった手を見つめる。
触るな、なんて言えるのか。

「………」

俺のだ。
子供みたいな独占欲。
見下ろす俺は、なまえにはどう写っただろうか。
びくりと震えた、怒っているようにみえたのだろう。
実際は、どんな顔だったかなんて俺にもわからんが。
それでも俺は、このときの俺は、この手を繋ぐ事しか知らなかった。
こんな乱暴なやり方でも、なまえはひどくほっとして、その姿にまた胸を痛める。
ああ。
違う。
そうじゃない。

「なまえちゃん」

俺じゃない声がなまえを呼ぶ。

「は、ハイ」
「触らせてあげることはできんのだけど、いつでも眺めててくれていいからな」

そんなふうに笑えたなら、なまえはもっと安心するのだろうか。
俺には気の利いた言葉一つ、表情一つ、作ってやることは出来ない。
もしかしたら、俺といない方が幸せなのかもしれないなんて、そんなことを思った。
明日から、隣になまえはいない。
そんな日常、考えるまでもなく最悪だった。


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20160314:好き勝手やらせてもらってありがとうございます。

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