はじめての宝物01S


それは、ただの気まぐれではなかった。
これはまだ、俺の想いが恋であった頃の話。
なまえが思う様にならなくて、勝手に熱くなったり勝手に怒ったり、そんなことをしていた時の話だ。

「……」

俺達は寝食を共にしていて、それこそお互いの想いを知らないのが不思議なくらいではあったが、ここしばらく、なまえが笑っているところを見ていない、そんな気がした。
なにか、なにかこいつが手放しで喜ぶような。
そんなことをしてやりたいと思った。
とはいえ、どんなことをしたらいいのかよくわからない。
いや、簡単なんだ、こいつを喜ばすことなんて。
けれど、そうではなく。
まるで恋人にするような、そんなことを、したいと思っていた。
待ちゆく男女が、プレゼントを送りあっているのを目撃したことをふと思い出し、これだ、と、名案であると思った。
そしてその2人というのはその後二人で買い物に出かけていた。
「危ない」から、ということと、下らない「人前に晒すのが嫌だ」という理由であまりなまえと一緒に外を歩いたことは無い。
それを、やってみようか。
なまえはどんな顔をするのだろうか。
そんな気持ちからだった。
いろいろ考えを巡らせたり、機を見ている間に思いたってから時間が経ってしまった。

「そろそろ武器を新調しようと思う」
「ん」

こんな誘い文句にするつもりは、なかったのだけど。
なにか欲しいものはないのか、と小さく聞いた言葉は届かず、なまえはきょとんとして、冗談とも本気とも取れない言葉を吐いた後、「ない」と言った。
武器に限定してもないのだから、範囲を広げたらどう困るかは目に見える。
きっと今でも、ほしいもの、なんてカンタンに吐きはしない。
それはわかっていた。
わかっていたから、無理やりに詰め寄って言わせたのだ。

「刀、かなあ」
「なるほど。刀か」

目を輝かせていたのは、どちらかと言えば俺の方で。

「うん」
「そうと決まれば、早速行くぞ」
「行くって、どこに?」
「決っているだろう、刀鍛冶だ」

その要望にうかれていたのも俺の方だった。

「今から?」
「今からだ」

なまえはずっと、不思議そうな顔をして、俺がそんなことを言い出した理由を考えていた。
気付くかもしれない。
もしかしたら、俺が浅ましくもなまえに恋をして、好かれたくて愛されたくて仕方が無いことに、気付くかもしれない。
どうして俺が、こんなになまえに触れるのか、もしかしたら。
手をとって歩き出すと、なまえはとんでもないことを言い出す。

「あの、ソニック」
「なんだ」
「どうして今更、私に武器なんか」

ほんの少し、どろりと黒い感情が産まれる。
なんでそんなに、不安そうにする。
なまえの表情は明るいとは言えず、ただただ何かを心配していた。

「なにか問題があるのか」
「いや、ソニックのほうこそ、私に何かあるなら武器を変えるとかじゃなくて私に直接言った方が」
「何故そうなる」

不器用だった、と一言で片付いてしまうようなことだ。
違う。
そんな顔をして欲しかったわけじゃない。
もっと油断していい。気を抜いていい。わがままを言っていい。
どうして。

「だって突然だし。どうしたの?」
「ど、どうもしない!」
「そう、ごめんね」

どうして、伝わらない。

「っ!」

うっかり手を出して、はっとする。
俺は何を。
またやってしまったという顔で俯くなまえに、俺の表情はきっと見えていない。
ああ。
殴った拳を切り落としたい。
なまえが、謝るところなんてひとつもない。
怒ればいい。
お前は怒っていいのに。

「ごめん」

言葉に、胸のあたりがズキズキとする。
明日にでも、消えてしまいそうな表情。
どこかへ、行ってしまいそうだ。
俺は手を繋ぐ力を強める。
どこにも、やりたくはない。
俺も謝らなければ。
そして、なまえの不安を取り除いてやらなければ。
どうしたら。
まず、お前には何の問題もないのだと伝えなければ。
それから、大丈夫だと。
大丈夫だから、そんな顔しなくてもいいと。
伝えなければ。
そうしたらどうか、こっちを向いて、どんな曖昧な笑顔でもいいから、見せてくれたのなら。
どうか、どうか−、

「ありがとう、ソニック」

ありがとう。
確かになまえはそう言った。
なんてことない、ただの言葉。
理不尽に詰め寄られて、意味不明に殴られて、無理矢理に手を引いて。そんな相手に。
それでもなまえは、ありがとうと。
それは。

「違った?」

こちらのセリフだ。
間違っていない、そう言う俺の声は少しだけ震えていた。
なまえは、平気で、「大丈夫?」なんて聞くのである。
どうしようもないくらいに、こいつを、どうにかしてしまいたい、そんなふうに思っていた時の話。



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20160314:ああーーー。というわけでソニック編です。
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