はじめての宝物9


声がする。

「調子はどうだい?」
「なまえちゃん、大丈夫?」
「ああ、もともと頑丈なヤツだ……、程なく目を覚ますだろう」
「程なくって、何秒後くらい?」
「こら、そんなことわかるわけ……」
「そうだな、大体……」
「わかるのかい!?」
「はっ! もしかして、3秒後くらいかなあ!?」
「ふっ、かもしれんな」
「おいおい」
「さん!」
「に」
「い、いち……」
「「「あ、」」」

のぞき込む、三つの顔。
確認するよりも早く、飛び起きていた。
そうだ。

「ソニック怪我は!?」

見ると、綺麗なものでどこにも傷は見当たらない。
元気そうだ。
よかった。
ほんとに、よかった。
鍛冶屋さんも娘さんも無事らしい。
私が胸をなで下ろすと、ソニックにふわりと抱きしめられた。
そっと部屋を出る鍛冶屋さんもと娘さん。微笑んで、私に手を振って出ていってしまった。

「……ソニック? やっぱりどこか痛む?」
「ああ」
「え、ど、どこか怪我した? 薬のむ?」
「そんな便利な薬はない」
「そうなの」
「お前はどうなんだ。痛みは?」
「そんなに大したことじゃないよ、大丈夫」
「そんなわけないだろう」
「本当に」
「嘘をつけ」
「本当に、ソニックが無事ならよかった」

ぎ、とソニックの腕に力が入る。

「いっ」
「痛いだろう」
「そりゃ痛いよ……」
「なまえ」
「うん?」
「悪かった」
「なにが?」
「……何の事だと思う」
「朝ごはんのこと?」
「あれは食った。美味かった」
「本当に?」
「ああ」
「やったね」

ソニックは私をそっと話してもう一度布団に押し戻した。
たしかに少し、背中が痛む。
けれどやはり、そんなことはどうでもいい。
ソニックを見上げると、ソニックはふ、と笑ってくれた。
私も笑い返す。

「ソニック」
「なんだ」
「井戸端会議って知ってる?」
「鍛冶屋のガキのままごとか……」
「ソニックもやったことあったんだね」
「もう二度とやらん」
「だから、私も、だったのか」
「なに?」
「ううん。帰ってからも料理練習していい?」
「好きにしたらいい」
「ん」
「なまえ」
「ん?」
「ありがとう」
「? なにもしてないよ」
「そうかもしれんな」
「? でも少し嬉しい。私もありがとう」
「俺は何もしていない」
「そんなことないよ」
「……まあ、なんにせよ。しばらくはここに滞在する、ゆっくり休め」
「うん。あ、ソニック」
「なんだ?」
「ソニックって私が」
「!」

少しだけ、聞くのをためらう。
まあいいや。
弱ってるってことにして。

「遊ぼうって言ったら、遊んでくれるの?」
「…………」
「あ、だめそう?」
「はあ」

ため息。
けれど怒っているわけではなくて、その柔らかい雰囲気をそのまま私の頭へ落とす。
手のひらはそっと頭を撫でる。
するりと、私の髪をすく指先がすごく綺麗だと思った。

「なんでもしてやる」

人っていうのは、こんなに優しく笑えるものなのか。

「お前がやりたいと思うこと、行きたい場所、全部付き合ってやる」

真っすぐに、ソニックのほうを見た。

「私も」

ほとんど反射で、私は言うのだ。

「私も、」

なんでもやれるから。
そんなことを、言うつもりだった。
けれど、ソニックの手によって口を塞がれる。

「いい」
「……」
「お前の気持ちはよく、わかった」
「何も言ってないよ」
「そう思うか?」
「実際、そうだと思うけど」
「それで?」
「ん?」
「どこへ行きたいんだ?」
「え」
「遊ぶんだろう?」
「ほんとに?」
「まあ、傷が癒えるまでは無理だがな」
「ええ?」
「当たり前だ」

ばす、と布団をかけられる。
なんだか、今日は自然に話せている。
ソニックも楽しそうだ。

「その話はまた聞いてやる。水と薬を持ってきてやるから、待っていろ」
「ん」

時間って。
人の雰囲気って。
こんなにも柔らかくなるんだなあなんて、私はそっと目を閉じた。
あたたかい、この気持ちの名前をまだ知らない。


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20160312:グッズ買ったった。大概ファンである。
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