はじめての宝物7


森の奥でソニックを見つけた。
ちょうど少し休憩していたようだ。

「ソニック」

声をかけると、ソニックはこちらを見てから、ふ、と目をそらした。

「……どうした?」
「ううん。ちょっと町へ買い物に行ってくるね」
「……頼まれたのか?」
「あー、あの子が、一緒に行こうって言ってくれて」
「なるほどな……」
「だから、行ってくるね」
「……」

ソニックが、さみしそうな表情をする、その理由が、思い当たらなかった。

「ソニック?」

名前を呼ぶと、ソニックの瞳がゆらりと揺れて、こちらを見据える。
少し潤んでいるようにも見える。
泣いてしまいそうな顔だ。

「なまえ、お前は、」

こんなとき。
あれ?
でも私は、こんな時どうしたらいいのか知っているんじゃないか。
思い出す、とても最近の記憶だ。
なんだか寂しくて、でもどうしてかはよくわからない。そんな気持ちを、私も知っている。
そうだ、理由はいい。
あの子だって私の事情などわからなかったに違いないのだ。
けれど、その行動に癒されたのは、そこにはただ、気持ちがあったからだ。
昨日、あの子は。

「ソニック」

壁のような。
有刺鉄線のような、茨のような。
ガラスのような、崖のような。
何かがそこにあった気がしたけど。
気のせいだったようだ。
私がソニックを抱きしめるのはこんなに簡単だった。
私が飛び越えてしまえば、よかったのかも。

「泣かないで」

泣かないで。
笑っていてほしい。
それだけだった。

「なまえ」
「うん」
「俺は、」

瞬間。
森に轟音が鳴り響く、どおおぉ、と言うような派手なものから、木々をなぎ倒すような音。
動物の鳴き声。
悲鳴のような鳴き声だ。
ば、と背中合わせに立つ。
周囲には何も確認出来ない。

「今のは?」
「わからん、が」
「うん、音のした方向って」
「ああ。なまえ、お前は」
「ソニック。私も後で行くから、急いであげて」

後ろの気配は少しだけ動揺していたが、すぐにいつもの調子に戻った。

「ああ、武器はあるな?」
「大丈夫」
「敵は1人とは限らん、気をつけろよ」
「ソニックも」

同じ方向に、違う速さで走り出す。
幸いそれほど遠くもない。
ただ、外で待っている女の子が心配だった。
いや、ソニックが行ったのだから大丈夫だ。
私もいそがないと。
ざわざわと、胸の奥の不快感が消えない。
走っていると、再び轟音。
何か小屋でも潰すような音だ。

「……」

もうひとつ、音がある。
足音だ。
いや、足音は2つで、ひとつはちいさな子供が走るような音と、もうひとつは、……もうひとつも人間の音だ。
少し進路からはずれるが、音の聞こえた方向に向かう。

「!」

足音が止まる。
程なく、声も聞こえてくる。
遠くに見えるのは、地面に倒れているあの女の子と、いかにも賊ですという格好の。
確認する前に加速する。

「たすけて、」

あの明るい女の子の、両目に涙が溜まっている。
大丈夫。

「たすけて! お母さん!!」

目の前の男はそこで動けなくなる。
殺してはいないが、少し眠っていてもらう。
後で警察にでも突き出すとしよう。
音もなく背後に回って振り下ろした手刀。
ゆらり、と男が倒れる。
女の子と、ゆっくり目が合った。
笑っていて欲しい。
もう、大丈夫だから。

「平気?」
「なまえちゃ、ん、あの、あのね! お父さんが!!」
「うん。君はどうする?」
「お父さんのところ行く!」
「わかった。じゃあ、行こう」

女の子を抱き上げる。
会話をしながらだったけれど、周囲ほかの人間の気配はない。
子供ひとりだ、一人でいいと踏んだのだろう。
それにしても。
それにしてもだ、さっきから聞こえるこの音は何だ。
切り裂くような、叩きつけるような。
それに混じって、なんだか悲鳴のような音も聞こえる気がした。
人のものではない。
走り出す、状況を聞いておこう。

「何があったか話せる?」
「うん、悪い人たちがね、いっぱい」
「いっぱい、か。何が目的かな?」
「泥棒さんだって言ってた」
「まあ、そういうやつだろうね。武器は持ってそ、いや、もってなくてもあそこには武器しかないのか……」
「なまえちゃん、あのね、なまえちゃん」
「ん?」
「かたながね」

ぞ、
全身を寒気が覆って、体のどこかが止まれと叫ぶ。
びたり、と突然静止すると、一瞬後に、目の前の地形が変わっていた。
何の前触れもない。
ただの、瞬きくらいの時間の間に、地面が避けて、穴があいた。
周りの木々も空気も当然切断されて。
しかし程なく、空気だけは混ざりあった。
意味がわからない。

「な、ん、だこれ……」
「なまえちゃん……」

声にはっとする。
そうだ、私は1人じゃないんだった。
急いで笑顔を作り上げる。

「大丈夫!」
「え……」
「大丈夫だよ、ソニックは強いから」
「なまえちゃんも?」
「うん、私もそこそこやるからね」

に、
と。うまく笑えていたらいい。
女の子の全身から力が抜けるのがわかって、強く抱え直した後で、走り出した。
まるで斬撃のような破壊跡を飛び越えて。


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20160310:大切なものはなんですか?
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