はじめての宝物6


もっと気楽に一緒にいられたこともあったはずで、だけどお互いに昔のままというわけには行かなくて。
私は先へ進むことを怖がっていたし、一人になるのが嫌だった。
その日の夜は何の会話もなく、ただおやすみといっただけだ。
朝も、顔を合わせていない。
朝ごはんを、食べてくれるのだろうか。
少し憂鬱だった。

「おはよ! なまえちゃん!!」
「おはよう」
「何作る!!? 今から決めよ!」
「ん」
「元気ない?」

女の子は首をかしげる。
私はただ、思ったことをそのままに言う。

「君は元気だねえ」
「うん! 私ね! 元気になって欲しいから、元気だよ! お母さんがね、それが一番って言ってたの。はい、ちょっとあげる!」

差し出された、空気を見つめる。
よくみれば、なにか綺麗なものが見えそうだけど、なんだか少し曇っていて、うまく見ることは出来なかった。

「立派なお母さんだねえ……」

えっへん、と言うこの子もきっと、立派なのだろう。
私はそれをそっと胸にしまうと、元気が出てきた気がした。
元気だとは思う。
でも、元気でいて欲しい。
できれば、笑っていて欲しい。
そんなことを願うのは、おかしいだろうか。
拾われた私では、できない?

「なまえちゃん、これどーお?」
「ん?」
「パンケーキ!」
「へえー、美味しそう。材料あるかな?」
「あるーーー!!」
「じゃあ、作ろうか」
「うん!」

そんなこと。
そんなことないはずだ。
ソニックの隣でも、胸を張っていられるように。
私もこの子のように、がんばらないと。
ただ、あまり、がんばるということが、わからないけど。
たぶん、こうしていろいろやってみるのは、悪いことではないはずだ。

「……」

結局。
朝は帰って来なくて、ソニックの分はそっととってある。
親子に両肩を叩かれた。
私がひとつため息をつくが、どうしてか、やはりその刀はそんな気持ちさえ切り裂いてくれるような。
また、刀を見ている。
工房の奥はあまり見ないようにして、刀だけ。

「ねえ」

声をかける先は鉄の塊。

「君は一体どんな人を待っているの?」

答えない。

「君みたいな刀を扱える人は、どんな人かなあ」

答えない。

「……私とかどう?」

答えない。
当然だ。
刀が話をするわけはない。
きっとこの子が選ぶのは、もっと自信があって強くてかっこいい人だろう。

「………でも、私、君がいいなあ」

ほかの刀を受け取る気にはなれなかった。
でもせっかくソニックが。
うーん。
喜ぶ演技なんてきっとバレる。
いい気分ではないはずだ。
どうする、べきだろう。
これがいい、なあ。
ぼうっとしていると、こちらも、暗鬱とした空気を切り裂いてやってくる。

「どーーーん! なまえちゃん!!」
「わ! びっくりした、どうしたの?」
「お買い物行こ!!」
「買い物?」
「うん、スーパーに! いつもはお父さんと行くけど、今日はなまえちゃんと行ってもいいって!」
「そうなの」

お金もあるよ、と、首から可愛いうさぎのぬいぐるみをぶらさげている。
後ろにチャックがついていて、そこから、2000円をみせてくれた。

「行こ!」
「うん、あ、でもここを離れるなら」
「お兄ちゃん?」
「うん。声かけてから行くよ、少し、待っててくれる?」
「うん!」

胸の奥で、血が上手く循環していないような。
この感覚の名前を知らなかった。
別にそのくらい言伝てもらえばいいとは思う。
けれど、なんとなく。
なんとなくだけれど。
ソニックのそばにいたい気がした。
声も聞きたい。
ほんとうか?
いや、やはりそうじゃなくて。
ぐるり、ぐるりと思考が回るが、その不快感が何なのかさっぱりわからない。

「待ってるねー!」

大きく手を振る娘さんに手を振り返す。
この前兆に、嫌な予感、と名前をつけるのは、もう少し先。


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20160309:花粉症きつい
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