はじめての宝物3


二人で同じ部屋はいつものことで。
けれど、十分も休まないうちに、ソニックは散歩してくる、と外へ行ってしまった。
どうしていようか。
刀を、あの刀を、見ていてもいいだろうか。
他にお客さんがいなければ、たぶん。
どきどきとしながら私が部屋を出ると、廊下の奥から、小さな女の子がこちらを見ていた。

「お邪魔してます」
「!」

私が言うと、女の子はこちらに走って来た。
雰囲気が、あの鍛冶屋さんに似ている。
娘さんだろうか。

「お姉ちゃん!」
「ん?」
「遊んで!!」
「いいよ」
「ほんと!!!?」
「うん」
「じゃあおままごとしよ」
「…………おままごと」
「……おままごといや?」
「う、ううん。えっと、おままごとってさ」
「おままごと知らない?」
「うん。実は、やったことない。教えてくれる?」
「いいよ! じゃあ、お姉ちゃんはお母さんね!」
「ん? うん、えーっと、うん」
「おそといこ!」
「うん、だ、大丈夫かな」

女の子が私の服をひっぱる。
工房へ出ると、鍛冶屋さんがなにか仕事をしていた。
私はすかさず目を反らす。
見てはいけない。

「おとーさん! お姉ちゃんと遊びにいってくるね!」
「え!? あー、悪いね、なまえちゃん。あんまり遠くへ行くなよ」
「はあーい」

やはり、娘さんのようだ。
どうにか女の子に導かれるまま外へ出る。
もう、鉄を打つ音しか聞こえない。
これならもう、大丈夫だ。
女の子は笑っていた。
満面の笑み。

「なまえちゃん!」
「ん?」
「いい名前だね!!」
「そう、かな? ありがとう」
「なまえちゃん、お腹すいたよ!」
「え、食べるもの持ってないなあ」
「違うよ、なまえちゃんお母さんでしょ!」
「あ、おままごとね。君の役は?」
「ママ友!!」
「へえ、おままごとって、そういう役職もあるんだ……」
「んーとね、いまね、井戸端会議するの」
「いどば……、なにそれ?」
「こうやってね、集まって話をすることだよ!」
「へえ、物知りなんだねえ」
「なまえちゃん、子供に笑われちゃうよ!」
「そ、それは困ったわねえ」

彼女は底抜けに明るくて、子供とはこんなものだったかなあなんて考える。
思えば、平気で武器を振るう子供しか知らない。
最近は少しずつ外の世界に触れるようになったけれど。
私の知識レベルはこんな小さな女の子にも及ばない。
歳はいくつだろう。
女の子って何歳までおままごとで遊ぶのだろう。
私は遊んだ事、ないけれど。

「うちのおとーさんったら、仕事ばっかりでね!」
「(鍛冶屋さんのことかな)あらそうなの」
「おたくのお家はどーお?」
「ええ、家、家、は……」
「なまえちゃんの旦那さんはかっこいいよねえ!」
「だ、へ? 誰?」
「あの黒い髪のお兄ちゃん」
「え、あー、なんだろ、うーん」
「遊んでくれる?」
「………」
「あれ? どうしたの……?」
「う、ううん、その……」
「なまえちゃん?」
「……あそぶ、って?」
「んーとね、町に遊びにいったり、お買い物したり、一緒にでかけたり、ごはんたべたり! どう?」
「…………そういうの」
「ん?」
「して、みたいなあ」

今私は何といったのだろう。
そういうの、してみたいって言った?
そうなの?
でもたしかに、この子の話を聞いて、とても楽しそうだと思った。
視線を合わせるようにとしゃがんだ私を、小さな体が抱きしめる。

「泣かないで、なまえちゃん……」
「泣いてないよ……」
「よーし!」

びくり、突然の大きな声に肩が震える。
女の子は満面の笑み。

「今日はパーッとやろ!」
「パーッと、って?」
「美味しいものいっぱい作って、みんなで食べて、たくさん話をするの」
「作るって、君が?」
「なまえちゃんも! わたしとお料理しよ!」
「ご、ごめん私、料理」
「なら一緒にお勉強しよ! ご本たくさんあるから! 一番食べたくなったものを作るのが楽しいって、お母さんといつも見てたの!」
「へ、え」

そういえば、
姿を見ないが。
流石に確認するまでもなく、さみしそうな笑顔を見たらなんとなくわかる。
今度は私が彼女を抱きしめると、華のようにぱっと笑ってくれた。
うん、きっとこのこのお母さんも、こうやって笑っていてくれた方が嬉しいだろう。
綺麗な笑顔だ。

「優しいね! なまえちゃんも!」
「も……?」
「がんばるぞー!」
「ん、うん」
「えい、えい、おー!」
「お、おー……!」

小さな女の子に手を引かれて二人で台所にたった。
これが友達と遊ぶということなのかも。
随分年の離れた女の子を相手に、そんなことを思った。

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20160308:データロスト吐きそう。
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