はじめての宝物2


ずいぶんな山奥にその工房は存在した。
その刀鍛冶は、ソニックと知り合いらしかった。
私はもっとおじいさんをイメージしていたので意外だった。
けれど、にかりと笑った顔は人当たりが良さそうでいい人そうだ。
少し緊張していたけれど、ほわりと肩の力が抜ける。

「よう、ソニックくん。お! その子が例の子か!!」

けれど、ソニックの手を握る手に力が入る。
ソニックは少しだけ私を掴んでいる手を引いて、名前を呼ぶ。

「なまえ」
「ん、あ、え、と、なまえです。忍者やってます……」
「ははははは! オーケー。なまえちゃんだな」

ずい、と手が差し出される。
私もそうっと、ソニックに掴まれていない方の手を出す、思ったよりもゴツゴツとしだ手に少し驚いた。これが、職人さんの手というやつか。
ソニックとはまた違う。

「……もういいだろう」
「おっと、すまんね。とりあえず、部屋を用意してあるから少し休んでくれ。商売の話はそれからにしようか」
「ああ。行くぞ、なまえ」
「うん」

工房に入ると、いくつも刃物が並んでいる。包丁もある。
短刀、脇差、槍などいろいろ。
刃があるものはすべて取り扱っているのだろうか。
きょろきょろと周りを見ていると、ひときわ目に付く、綺麗な刃が。
ざわり。
全身の毛が逆立つようだった。
私は完全に動きを止めてそれを見ていた。
ソニックも一度止まって私の視線の先を見る。
「ああ」と、だけ言った。
そんな、言葉で終わってしまうのか。
こんなに、武器に魅力を感じたのははじめてだった。
その1振りの周りだけ空気が違うようだった。
ふわふわと輝いて、しかし、その実その刀は、氷のような鋭さを持っていた。
暖かくて冷たくて、なにかに似ているような気がした。

「お、それが気になるかい?」
「え、あ、すいません」
「いやいや、いいっていいって。あれはさ、俺の最高傑作なんだ」
「最高傑作」
「そ」
「うん、確かに、とても、綺麗な刀ですね」
「そうだろ?? いやあいける口だねえなまえちゃん!! もっと近くで見てみるかい」
「っはい!」

鍛冶屋さんの声に促されるままに、その綺麗なものに近付く。
するり、と、ソニックから手を離して、鍛冶屋さんについてく。

「…………」

思えばこの時から、夢中になると周りが見えなくなっていた。
私はその時ただ、その刀を見ていた。
太刀。
青いような白いような、淡く鈍く光っているようだ。
それが私には、綺麗で綺麗で仕方が無くて。
ただじっと、その刀を見つめていた。

「名前はあるんですか」
「いいや。まだだよ」
「へえ、いい名前つくといいですね」
「いやあ、もしかしたらさ、なくてもいいかもなんて思うんだよ」
「どうしてですか」
「だってさ、かっこいいだろう? 無名の名刀なんてさ。とは言っても、振るってくれる人間がいなくちゃ、こいつも浮かばれないんだろうけど。なかなかくせ者でねえ、俺が生きてる間にこいつの真価を見れるかどうか」
「そんなに、ですか」
「まあねえ」
「すっごいんですねえ」
「……」
「なまえちゃん、ソニックくん睨んでるけど」
「え! あ、」

怒っている。
と、その時の私にはそう見えた。
本当はどうだっただろう。
正直なところ、またやってしまったかなあと思って少し、怖かったのを覚えている。

「なまえ」

ぱし、ともう一度手が繋がる。
それでもまだ、手を取ってくれるのか。
よか、った。

「なまえちゃん」
「は、ハイ」
「触らせてあげることはできんのだけど、いつでも眺めててくれていいからな」

鍛冶屋さんの笑顔に、私も笑顔で返す。
いつまで滞在するのかわからないけれど、そうか。
いつでも、見ていていいのか。
なんだか嬉しくて、一瞬だけ、ソニックの不機嫌な顔を忘れた。


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20160307:変わらないもの変わったもの。
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