はじめての宝物1


これはまだ。
私に何も無かった頃の話。
今ほど機械に詳しいでもなくて、家電修理もしていなくて、ただ、ソニックに習って忍者をしていた時の話。

「そろそろ武器を新調するか」
「ん」

そんなことを言うのは珍しく、いつも気づけば新調されていたし、いつも、私をあまりそういう店とかに連れていかないようにしていた。
私が行くとなにか調子が悪いのかと思っていたが、そうではないようだ。
こちらをちらりとみて、ソニックはもう一度いう。

「そろそろ武器を新調しようと思う」
「うん? 聞こえたよ」
「…………、ないのか」
「ない? 武器? 私はどっちでもいいよ」
「違う。なにか欲しい武器はないか」
「………、レーザーブレード」
「忍具でだ!」
「んー………ない、かなあ」
「なんでもいい」
「そんな事いわれても」
「いいから言え」

無茶苦茶だった。
そもそも私に出番が回ってくることはそうそうなくて、武器も有り余っている、というかソニックのを借りて満足しているから、自分のものが欲しいと思ったことは無い。
得意な道具というのも思い当たらない。
苦手なものも特にない。
しかし、引いてくれそうもないソニックの様子に、どうしたものかと視線をさまよわせる。

「あ」
「! なんだ!?」

ぴたり、とソニックが腰からさげている刀が目に止まる。
強いていうなら。

「刀、かなあ」
「なるほど。刀か」
「うん」
「そうと決まれば、早速行くぞ」
「行くって、どこに?」
「決っているだろう、刀鍛冶だ」
「今から?」
「今からだ」

いつになく張り切っていたのを覚えている。
私の手を引いてその場から立たせて、ほんとうにそのまま鍛冶屋へ向かった。
なんだと言うのだろう。

「あの、ソニック」
「なんだ」
「どうして今更、私に武器なんか」
「なにか問題があるのか」
「いや、ソニックのほうこそ、私に何かあるなら武器を変えるとかじゃなくて私に直接言った方が」
「何故そうなる」
「だって突然だし。どうしたの?」
「ど、どうもしない!」
「そう、ごめんね」
「っ!」

ごつ、と頭を殴られる。
割と痛い。

「ごめん、私、」
「謝るな!!」
「……ん」

余計なことを言ったらしかった。
どうやら、ソニックにとって聞かれたらまずいことのようだ。
無神経だった。
もうこのことについて言及するのはやめておく。
繋がれた手は離されていないし、今のうちに黙っておこう。
そうして、なんで怒らせてしまったのか考えよう。

「……すまない」
「……………ごめんね」
「お前が謝ることは何も無い」
「……」

何も無いのだろうか。
ソニックは優しいからこんなことを言ってくれているだけなのではないか。
なんだか怖くて、俯くのはやめたけれど、ソニックと顔は合わせられない。

「俺が、お前になにかやりたいと思ったからだ」
「……」
「もう殴ったりしないからこっちを向け。聞きたいことがあるなら聞いてもいい」

そっと、ソニックの方を見る。
何故か、ソニックの方がずっと泣きそうな顔をしてこちらを見ていた。
ずきり、と胸が痛む。
こんな顔しないで、ほしい。

「あの、えっと」
「……」

必死で思い出すのは、普通に生きてきた人たちのやりとり。
こういう時、たぶん、根掘り葉掘り聞くよりもいい言葉があったはずだ。
ソニックは、私に刀を買い与えてくれると言う。
たぶん、その気持ちまでは聞かない方がいいのではないか、そんな気分になっただけ、くらいの気持ちでいいのではないだろうか。
私が汲み取るべきはそんな奥深くのものじゃなくても良くて。

「ありがとう、ソニック」
「………」
「………違った?」
「いや、間違ってない。それでいい」

数分前に私を殴った凶悪な拳は、そっと開かれ私の頭の上に置かれた。
笑っている。
その笑顔がどんな種類のものか、その頃の私にはわからなくて。

「なまえ」
「ん」
「大丈夫だ」
「……本当に?」
「当然だろう」
「そう、なの」
「ああ」

これは私が、今よりずっと世界を知らなくて、人を知らなくて、自分を知らなくて、ソニックのことを知らなかった。
世界のすべてが綺麗で怖くて、隣で小さくなっていた。
そんな折の、お話である。


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20160307:それはソニックも同じ。みたいな話書きます。
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