恋人であることについて後


「なんだか綺麗になったわね」

修理が終わって帰る時に、そんなことを言われた。
最近よく言われる。

「なまえおねーちゃん、おめでとう!」

小学生に本気で祝われて、気の弱いおとなしい子は、無言で涙を流していた。
なんだか申し訳なくて近くの喫茶店でパフェを奢ってあげた。
肝心のソニックはと言えば。
最近よく、幸せそうに微笑んでいる。
慈しむようなその笑顔は、少し前までは無表情だっただろうという場面のときに、よく、している気がする。
つまりどういうことなのだろう。
正面に座ってもくもくとご飯を食べるソニックに、直接聞いてもいいものだろうか。
おひたしに手を伸ばして、ほわりと笑う。
あ、美味しかったかな。

「……なんだ?」
「ん、なにも」

そうか、と言ってすすす、とおひたしの皿を自分の方に寄せていた。
うーん。良かった。
拡張された書斎に並ぶ、料理本や、買い足された調理器具も喜んでいることだろう。
ご飯を食べ終わると、食器を食器洗い機に入れてテーブルをふく。
ソニックはソファでくつろいでいた。
あまり、ソニックが遊びにくる頻度は変わらないが、少し、ゆっくりしていくようになった。
相変わらず打倒サイタマさんに燃えていて、鍛錬鍛錬の日々だ。
いつか、サイタマさんに傷を負わせることができる日が来るのだろうか?
あまり、想像はできなかった。

「……」

髪が短い。
さらりと触れていると、ソニックはこちらを見てにやりと笑った。

「その程度か」
「…………ゴメンナサイ」
「何故謝る」
「いや、意図がわかるようで、わからないふりをしたほうがいいような気もして」

す、と手を引っ込める。
さらさらとしていて綺麗な髪だ。
相変わらず。
思えばこの髪も「好き」なのだと気付くが、先ほどのやりとりの後では少しだけ言いづらい。

「なまえ」
「ん……?」
「怖いか」
「え?」

ぱ、と顔を上げるけれど、怖いか、と言ったソニックは笑っていて。
これは、どっちだろう。
それは確かに笑顔ではあるが、どうしてか、その奥の感情までは読み取れない。
楽しんでいるような、いや、寂しそう、なのかもしれない。
私はそれでも、質問に答えるべきかと首を振る。
横にだ。

「怖い事なんて、なにも」
「なにも?」
「……なにもってことは、ないけど」
「こっちに来い」
「ん」

隣に座る。
こんなことは以前からよくあったが、こうも近くでこんな風に目が合うとどうしていいかわからない。
いや、前だってわかっていなくて、なにも考えずに触ったりしていたけど。
今も、いいのだろうか。
それでも。
す、と手を頬のあたりにもっていって、触れる直前でぴたりと止まる。
何故止めた。
私。

「さ、わっても、いいですか……?」
「ああ」

むに、と、頬をかるくつまむと、ソニックは少し不満そうだった。

「なんだそれは」
「あ、だめ?」
「ふん、別にいい」

ならばと、ぐに、と指で少し押すと、ぱし、と手を掴まれた。

「そういう問題ではない」
「わかってる、わかってるんだけど……!」
「……」
「……ソニック?」

怒らせただろうか。
あまり、うまくやれていないだろうか。
不安はあるけれど、ソニックが触れている手は離されないし、とても、暖かい。

「………待ってやる」

ぽつり、と言った言葉に、胸の奥がすくい取られるような感覚。
こんなことが起きてもいいのだろうか。
こんなにも。

「1日も、1週間も、1ヶ月も1年も、今更同じだ」

じわり、と目のあたりが熱くなる。
ソニックが私に向けているものの名前を知っている。
私は、そうっとそうっと、ソニックの頬に触れた。
いろいろな事を考えはするのだけれど。
こんなことで、幸せそうに微笑んでくれるソニックが全てだ。


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20160306:恋人になったお互いについて
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