end 拝啓、貴方の私へ


森の中で、見慣れた黒髪を見つけた。

「ソニック!」

呼ぶと、彼もこちらを振り返ってくれた。
走って来たので、少し息が切れている。

「……何かあったか?」
「用事があって。今、いい?」
「長くなるなら場所を変えるか?」
「ううん、大丈夫だと思う。あのね、ソニック。す」

あ、もっと、さらりというはずだったのに。
止まってしまった。
言い直さないと。

「ソニックが、好きだよ」

思ったよりも、なんだろう。恥ずかしい、のだろうか。
うん、そうかも知れない。でも、言えて、嬉しい、ような気もする。
ソニックはぽかんとしていて、私はここにつくまでに考えていた言葉がすごい勢いで頭から消えて行く。
こんなに新しいことが起きたのでは、当たり前かも知れない。

「やっぱり、ソニックがいいよ」

も、もしかして。
だけど。
何か間違えただろうか。
確かに、今日までソニックが私を好きでいてくれるという保証はないわけで。
でも、ソニックに限ってそんな突然。
あまりに黙っているので、こちらもだんだん焦りを感じる。
こういうとき、どうするんだろう。
勉強したけど、やっぱり、はじめてやることだ。なかなかうまくいっていない。ような。

「ア、ヘンジハイツデモダイジョウブダカラ……」
「待て。何故そうなる」
「いやだって、黙ってるから」
「今喋る」
「あ、待ってもう少し」

引き止めてくれるということは、大丈夫なのだろう。
続けることにする。

「私これからはいろいろなことに本気になってみようと思って。だから、料理ももっと凝るし、もっともっと自分のことも良くしていきたいから。あ、鍛錬にも付き合うよ。今までとは違って私もソニックに勝つつもりでやるし。きっと、それはいいこと、だよね?」
「言わなかったか」
「ん?」
「何を選んでも味方でいてやる」

ソニックがふ、と笑う。
あ。

「ソニック、抱きしめられに行ってもいい?」
「ふっ、いいだろう」

近付くと、慣れた手つきで抱きしめてくれる。
いつも、と同じようで、いつもと違う。
ソニックにとってはどうだろう。
これは、いつもと同じだろうか。それとも、いつもと違うものだろうか。

「なまえ」
「ん?」
「もうないのか」
「え、えー、っと、ええ? ひ、引かない?」
「お前の本気はその程度ではないはずだ」
「うーん、と、ね」

ただただほっとしていたけれど、どうやらソニックはまだ足らないらしかった。
それはそうか。
この程度では、ソニックにもらった100分の1にも満たない。
私は、これからものすごくがんばらないといけないのだ。
どんな言葉がいいだろう。

「幸せになってほしい」
「それは全員に思っていることだろう」
「そうなんだけど、そうじゃなくて。だから、幸せにしたい。私ができる全部をちゃんとやって、ソニックに。やっぱり、選んで良かったって言ってもらえたらすごく嬉しいと思うから」
「ほう?」

気分が良さそうだ。

「なんでもしたい。ソニックには笑っててほしくて。私も、何を選んでも、ソニックの味方でいるし、そもそもソニックは、私にとっては神様みたいな人だからね」
「……」
「撫でてくれる手も好きだよ。抱きしめてもらえるのもすごく落ち着くし、キスは、まだあんまりよくわからないけど。いつも助けてくれて見守ってくれて、心配してくれて、好きになってくれて。大事にしてくれて……。それにそうだ、そもそもあんな暗闇から助け出してもらって、思えば、王子様みた、」

音もなく、口の動きを止められる。
ぽかんとしていると、ソニックはそっと唇を離して、耳まで真っ赤な顔に、困ったような表情で言う。

「もう、充分だ」

私も、勢いで恥ずかしいことしか言っていないが。
これを逃すと、次いつ言うのか、さっぱり見当がつかなかった。
まだ言い足りない気もする。

「ほんと?」
「…………今日は帰るか。そうしたら、いくらでも聞いてやる」
「え、修行、は?」
「今日はもうそんな気分じゃない」
「そうなの?」
「ああ、なまえ」

す、と手が差し出される。
私はそっとその手をとる。
ほどなく、どちらからともなくするりと指を絡めた。

「他の奴らのところへは行かなくていいのか?」
「ん、うーん、先に行ってあるから大丈夫、かな」
「そうか」
「うん、ほんとはどういうシチュエーションで言うのがいいのかとか考えたんだけれど、二人のところにいったら一刻も早く言おうってなってね、だから走って来た!」
「まさかこんな場所で告白されるとはな」
「でもなんていうか」
「ああ」
「うん」
「「らしい」」
「な」
「ね」

特別で特別で特別すぎて当たり前になったけれど、やっぱり特別で特別で一等特別で唯一は、ソニックだった。
ソニックの中で生きていた、私、こんにちは。

「で、もちろん覚悟はできているな?」
「ん?」
「お前は勉強家だからな。きっとこれからのこともいろいろと調べてあるんだろう?」
「あ、いや、えー、っと?」

ソニックが信じていた私って、どんな私だろう。
どんな風に強くて、どんな風に弱くて。
どうやって笑って、どんな子なんだろう。
少しずつ、わかるだろうか。
少しずつ、混ざり合っていくのだろうか。

「なまえ」
「あ、いや、だから、その先、っていうのは」
「何を言ってる」
「ん?」
「俺と知っていくんだろう?」
「あ、」

そう、か。
ここからは。

「こんな気持ちのときに、言えばよかったんだね」

嬉しくて、苦しくて。
なんと答えたらいいのかわからなくて、ありがとうでは弱いと思っていた場面が、今まで、何度も何度もあった。そうだ、こういうときに。

「本当に、大好き」
「……いい加減にしろ、ここは外だと何度言えばわかる」
「え!? 告白って外じゃまずいものだったの」
「……はやく帰るぞ」
「ま、まままま、まって、走ったら、ソニックの足にはとてもじゃないけど、ごめ、ごめんなさい、勘弁して下さいこれちょっと違うんじゃ!!?」
「なまえ」

また、ぴたりと黙らせられる。
思ったよりも、柔らかい唇だった。

「黙ってろ」

ひょいと、抱えて走ってくれる。

「なまえ」
「?」
「これからも、好きに生きろ。俺の隣に居るのなら、なにをしていてもいい」
「ありがと」
「だから、はやくここまで来い」
「え、っと?」
「これも言っただろう。俺はなまえを、愛している」
「あ、ああー、それ、あー……」
「お前の口から聞ける日を、楽しみに待っているぞ」

私も、楽しみだ。
いつかそんなことを、さらりと言える日を。

「うん、必ず。これからもよろしくね」
「ああ」

ソニックの中にいる私が、本当の私に触れて、きっとどんどん新しくなる。
同時に、私の中にいるソニックも、変わっていくのだろう。
驚くことも、傷つくことも、わからないことも、あるかもしれない。
だから、私は忘れない。
今日に至るまでの日を。
時間を。
言葉を。
思考を。
私はこの人を、いちばん、幸せにしたいから。


end


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20160227:ありがとうございました!!!
感想等ありましたらぜひ送っていただければなあと思います。
正座して待ってます。
 
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