61 一緒に遊ぼう(ソニック編)4


ここの露天風呂のために水着を買った。
海にはまだ1度も着て行ったことがない。
嫌に緊張するが、毎年のことだ、し、他に人もいるし。
ただ、今年は髪も短くなったし、女の子と間違われることはなさそうだ。

「ソニック」
「どうした」
「さっき言ってた話したいこと、今話してもいい?」
「ああ」
「この前、ジェノスくんと手合わせをしたんだけれど」
「……」

岩にもたれかかって空を見上げていたけれど、ソニックがゆるりとこちらをみた。
周りはすっかり暗い。
彼には夜がよく似合っていた。

「勝ったよ」

たった一言。
これでどのくらい、伝わるだろうか。
あの時怒られた理由も、私が本気じゃなかったっていうことにも気付けた。
いや、多分、もっといけるのだろうけど。
本気になるって案外簡単なことなのかもしれない。

「怒った理由、よく分かった。今まで本当に、ぶ」
「……」

ばしゃりとお湯をかけられた。無言で。
結構勇気が要ったのに、なんてことを。

「謝るな」
「どうして」
「俺は、これでもいいかと思っていたからだ」
「じゃあ、ありが、うっ!」

またかけられた。
なんてことを。

「礼も言うな」
「なんで」
「聞きたくないからだ」
「そうなの」
「ああ」
「それならしかたない、のかな……。今度にする」
「で?」
「ん?」
「言いたいことはそれだけか?」
「ん、んー? でも、ね、わっ!?」

どれだけ顔に湯をかけられればいいのか。
三度目の攻撃を受けた。

「聞いてやる」
「………、ううん。がんばれるよ」
「…………」

話してもいいと言っておいて、きっと、実際に話し始めていたら4度目のお湯をかけられていたのだろう。
本当は弱音も愚痴もあるけれど、今頑張らなければ、きっと当分頑張れない。
頑張らないと。そんな気持ちだ。
きっともう数歩。
もしかしたら、手を伸ばすだけかも。
否、本当はもう届いていて、その手をとるだけなのかもしれない。
ソニックはふっと笑った。

「後で、酒でも飲むか」
「え、あー、ええ? 珍しいこと言うね……、いいけど」
「なまえ」
「ん?」
「明日の朝飯は和食がいい」
「そ、そんな事言われても……」
「ならお前でもいい」
「? どういう……、あ」
「なまえを」

思い切りお湯をかけておいた。
上がった体温をさらにあげられて、苦し紛れにお湯をかけたが、滴るお湯のよく映える。
なんでだ、一緒に滝に打たれたりしたのに。
ひときわ綺麗な顔をしている。
そして、体にたくさん傷跡がある。

「なにをする」
「君が先に三度もしたことだよ」
「それで真面目な話は本当に終わりでいいんだな?」
「もう既に真面目な話じゃないような気がするけれど、なら一つ。ソニックって、私を、その、そういう好きだって気づいたのはいつなの」
「覚えていない」
「即答。嘘じゃないですか」
「お前が」
「ん?」
「……」
「…………」
「…………もっと強くなったら教えてやる」
「…………それはまだかかりそうだなあ」

そこで、ふっと静かになる。
ソニックが岩を背にして空を見上げるので、私も同じように空を見上げた。
夜空に白いもやがかかってとても綺麗だ。
今日は星があまりないけれど、月がちょうど真上に来ていた。

「綺麗だね」
「ああ」

また来ようねとは、言えなかった。


----
20160225:楽しんでいってください、残りわずかですが。
 
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -