恋人であることについて前


恋人、ともなると、なまえから俺に触れてくることが増えた。
今でも隣に座る俺の頬をぺたりと触って楽しげにしている。
その程度か、なんて笑うと触るのをやめるので、言わないでおく。無駄なところで防衛本能の働くやつである。
俺がどれだけ我慢してきたと思っているのか、残念ながらまだなまえを抱いたことは無い。
告白された日もあのあと帰って、なまえがひたすらに楽しそうに話す様子を見ていたら、たまらなくそんな気分になるようだったけれど、それはもったいないような気持ちの方が勝った。
し、例え前者の気持ちが勝っていても、いきなりすべてする気もない。
それに、俺は。

「あ、そういえば、朝作ったプリンがあるよ。食べる?」
「ああ」

料理を更に勉強したようで、いい包丁が一本新調されていた。
弁当箱も新しくなって、みそ汁が持って歩けるのだと喜んでいた。
書斎は地下へと拡張されて、今までとは毛色の違う本が日に日に増えている。
化粧品の量も少しずつ変わったり増えたり、そのせいかはわからないが少し綺麗になった気もする。
楽しそうだった。

「どうかした?」

台所からプリンを持って来たなまえは、ふ、と笑った俺にそんなことを言う。
ずっと前から、大切にされてはいたし、愛されてもいたのだろうが。
今のなまえは、俺との恋愛を楽しもうとしている。
俺を楽しませようとしているのだろう、故に俺は。
なまえを楽しませてやりたい。
一足飛びにすべて済ませてしまうこともできるけれど。
そっと触れてくる指先が手慣れてしまう前に、よく覚えておきたい。

「大したことじゃない」
「そう?」
「気合いを入れていろいろやるのはいいが、無理するなよ」
「え、あー、んー、と……」

プリンを俺に手渡すと、再び俺の隣に座る。
今更ものすごく照れる、なんていうこともないが、俺がかける言葉やこいつにしてやることに、全て意味があると気付いてからは、ほんの少し身をよじり、少しだけ頬を赤くする。
そう、思い知ればいい。
善悪に頓着の無い俺がどうしてこうやってお前と一緒にいて、お前を大事にして、お前に想いを伝えたのか。
その理由はなまえ自身にあるのだということを。
思い知ればいい。
なまえはちらりとこちらを見て言う。

「あの、違う……?」
「なんだそれは?」
「ソニックが思ってた恋人とは違う?」
「何故そう思った」
「や、その、どう、したもんかなあって。あの、やりすぎてたりしたら、言ってくれると嬉しいんだけど」
「お前は大概やりすぎるだろう」
「ええ? そうかな……」
「だが、楽しいんだろう?」

すう、となまえはまっすぐこちらを見た。
真面目な顔、きらきらとした双眸が俺を見ている。
けれどそれは一瞬で、すぐに、なまえはへらりと笑う。

「うん」
「それならいい」
「ん」
「好きにやれ」

そしてなまえの、こういう努力はすべて俺のものだ。
この確信が、事実が。たまらなく愛しい。

「ありがとう」

なにもかわらないようで、大きな変化だ。
長く最高の幼馴染みをしてきたが、こんな日を、夢見ていた。
なまえはなんてこともない様子でプリンを食べ始めたが、構わない。
こういう時は、きっとこうするものだ。
名前を呼んで、こちらを向かせて、顔をす、と寄せた。
ひどく甘い。
これが日常になったのだと思うと、ただただ幸福だった。


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20160305:もっともっと良く知る為に。
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