59 一緒に遊ぼう(ソニック編)2


こいつの考えは、最近少しだけ読みずらい。
それでも読めなくはないが、変化の最中のこいつの考えは、どこでとう変わるか分からなかった。
電車に乗ってしばらくそわそわと落ち着かなかったかと思えば、朝飯を食い終わるとすぐに肩の上で爆睡していた。乗り換えの駅まで起きず、乗換えたすぐあともしばらく眠っていた。
それは構わない。
ただ、旅館の最寄り駅までついたため起こすと、じっと俺の顔を確認した後に、「ソニック、だ」と言った。
こんな状況なら、確認せずとも俺しかいなかったあの頃とは違うのだと思い知る。

「ん、」

旅館の外は温泉街として栄えていて、土産屋や、和小物屋などが多くある。
なまえは日中にはここに来られない。
夜までやっている店を探したり、うまい土産を買っておいたりと、ここに来たなら必ず行うことだった。
そんな中、いつもなら見もしないが、今日に限って髪飾りの並ぶ店が目に付いた。
今のあいつになら似合いそうだ。
しかしいざ物色し始めると、色以外はすべて同じに見えてくる。
どんなものがいいだろうか。
見ていると、店の店主に声をかけられる。

「彼女、どんな子?」

どんな、というのは外見のことだろう。
どう答えたものか迷ったが実際に見た方がいいと思い、眠っている時にこっそりと撮った写真を見せる。
それならばと四つほど候補を上げてくる店主に、俺は清々しい青色の髪飾りを選ぶ。
ピンクというのも最近あいつは身につけているが、ピンクというよりは、こちらの色の印象の方が強い。
金を払うと、適当にうろついた後旅館へ戻る。
フロントで、なまえならばちょうど昼休憩に入ったところだと教えられる。
だろうと思ったから戻ってきた。

「なまえ」

部屋は、いつものことだが同室だった。
呼ぶが、返事がないので部屋の奥へ入ると、外を見ながら茶を啜っていた。
わかりやすくぼーっとしている。
近くでもう一度名を呼ぶ。

「なまえ」
「! あ、ソニック。何か面白いもの見つけた?」
「いつもどおりだな」
「そう?」
「お前はどうだ?」
「うん、私も」
「そうか」

ラッピングは?
と聞かれたが別にいいと答えたので、その髪飾りは小さな紙袋に包まれている。
程なくなまえがそれに気づいて言う。

「何か買ってきたの?」
「ああ」
「ふうん?」

たとえばこれが食い物ならまだしも、こんなに小さな包である。まさかそれが自分へのものとは思いもせずに、立ち上がってお茶をいれはじめた。
なまえ、と、呼ぶが、その両目が俺を捉えると、どんなふうに渡したものか迷う。
実用的なものか、欲しがっていたものしか与えたことがないことに気付く。

「? どうかした?」
「ちょっと黙れ」
「理不尽では……?」

たった一言不満を漏らしただけで、あとは本当に黙っていた。
俺は近づいて、なまえの真正面に立つ。
別に真正面に立つ必要があるかと言われたら無いのだが、黙って動揺する姿が面白かった。
俺にただただ信頼を寄せるこいつは、俺がやることを信じるしかないのだろう。
それは俺も同じだが、残念ながらなまえは俺のこの気持ちをうまく理解していない。
するりと両手を頭に添えて、なるべく痛みのないようにそれを付けてやった。
何をしているのか途中でわかっても良さそうなものだが、今日のこいつは動揺していて、うまく思考できていないらしかった。
ドサクサで一度きゅうと抱きしめて、それからぱっと離す。

「な、なにかつけた?」
「仕事で邪魔になるようなら取ればいい」
「鏡見てきてもいい?」
「ああ」

いうが、鏡を見るまでもなく、それは自然となまえのものとして馴染んでいた。
部屋になれないせいで油断していたか、不意に壁についていた全身鏡にしゃらりと、髪飾りがなびいて、なまえの動きがピタリと止まる。
俺が近づくと、見たこともないリアクションだ。

「そ、う、あ、あの、こ、れ」
「……女が上がったな?」

どうしたら火に油を注げるか考えた。
似合っている、とは、きっと誰もがいうだろうが、これは俺にしか言えないことだ。
なまえは、顔を赤くして眉をハの字にして、困れるだけ困っているという表情ではあったが、その困っているは、自分の気持ちをどう表現したものかわからないところからくるのだと心得ている。
適当に冷静を装うくらいのことをする奴だが、なにか言葉を探している。

「あ、の。ソニック」
「ああ」

自然と笑が零れる。
なまえはゆっくりとその両手で自分の顔を覆うと、言った。

「ありがとう、すごく、うれしい」
「そうか」

よくがんばった。
そんなふうに褒めてやりたいと思ったが、俺はただ今まで見たことのない、もうずっと前に諦めてしまっていたなまえの姿を眺めていた。

「こんなに嬉しいものなんだね……、お客さんの差し入れとはまた違うんだね……」
「だろうな」
「……」

少し落ち着いたらしく、どうにか自分の顔に貼り付けた両掌を剥がしていく。
ちらり、とこちらをみる。
なまえは数度、深く息を吐いたり吸ったりを繰り返して、それから、すう、ともう一度こちらを見る。
ピタリと目が合う。

「ほんとうに、ありがとう。ソニック」

花が咲くように、綺麗には笑えていなくて、それでもへらりと笑ってみせた。


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