58 一緒に遊ぼう(ソニック編)1


仕事へ行く。
定期的に舞い込んでくる、ある仕事。
もちろん家電修理の依頼だが、ある小さな温泉旅館で、定期的にメンテナンスに行っているのだ。小さいとは言え旅館である、2日がかりで行う。
お礼にとご飯と部屋を用意してもらえて、露天風呂に入れる。
つまり私はこれを割と楽しみにしているのだ。
そして、はじめて行った、その帰り。
暇を持て余したソニックが迎えに来て、ついでに絡んできたヤクザをまとめて締め上げていたのだが、それが旅館の女将に感謝され、次からはぜひ2人で来てくれという話になった。
以来、ずっと二人で行っている。
始発の電車に乗って目的地へ向かう。
今回はいろいろな話ができたらいい。
ソニックとは、駅で待ち合わせだ。
早朝特有のもやのかかったような外は、なんだかやたらと力のあるもののように感じる。
そんな中、やはり全体的に黒い格好をした幼馴染みを見つける。
髪が短い。
そういえば、そうだった。

「おはよう」

声をかけるとこちらを見る。
見ただけだ。
なんてことない。
けれど、そういえば旅館でソニックの髪を触って遊んでいたなあと思い出していた全てが、一瞬飛んだ。
な、なんだいまの。

「おはよう」
「えーと? 元気だった?」
「ああ。お前はどうだ」
「うん。大丈夫」
「そうか。俺はてっきりまた動揺して吐いてるのではないかと思っていたが」
「そうそう吐かないよ……」
「なまえ、これは」

ソニックはにたりと意地悪く笑った。

「俺のことについて知るための時間と言う認識でいいんだな?」
「うん。仕事はするけどそれ以外でいろいろ教えてください」
「ああ。そのつもりだ」

久しぶりにあったから、だろうか。
それとも彼で最後だから、だろうか。
何も掴めなかったらどうしようかという恐怖とか、そういうものなのだろうか。
やたらと胸がざわざわする。

「行こうか?」
「ああ」

荷物は先に向こうに送ってあるため、それほど多くはない。
ソニックは私を窓際に押しやって通路側に座ったが、座るとその距離がやけに気になった。
いや、だってもっと近い時だってあったわけで。
それでも、サイタマさんやジェノスくんとは全然違う距離。
まあ元々がそんな距離感で当たり前で、いや、でも、多分ソニックが私を好きだったとするのならば多分私の態度はソニックにとって本意なものではなかったはずで。

「寝ていないのか?」
「ん?」
「昨日の夜だ。さっきも珍しく時間ギリギリに来ただろう」
「え、あ、あー、まあ、それもそうなんだけど。サンドイッチを作ったから、朝ご飯にどうかと」
「……食ったら寝ておけ」
「うん。あ、お茶も淹れて来たから、一緒に」
「わかった」

ちょっと凝ったサンドイッチを作るのが最近のブームだった。
昨日の夜から仕込みをしていたら、少し寝るのが遅くなったというのは本当だった。本当に少し。それにしても、そんなことを気にするということは、少し心配をかけたかも知れない。

「ありがとう」
「? それは俺の台詞だろう」
「いや、朝ご飯のことじゃなくて、えーっと、心配かけたかと思って」
「そこまで大げさなものではないだろう。お前は何かありそうなら事前に連絡を寄越すからな」

確かにそんなことをしていたかもしれない。
嫌な予感がするから、とか言って連絡することもあった。
でも、なんだか、やたらと胸にささる。
少し前なら少しくらい気にはなっても、なかなかいい幼馴染みをもててよかったくらいにしか思わなかったと記憶している。
なんてことを。
黙々とサンドイッチを頬張るソニックに、一人で勝手に居ずらくなって聞いてしまう。誤摩化しのつもりだった一言は更に私を追い込むことになる。

「美味しい?」
「? 当たり前だろう」
「っ」

いつもこうだったか、と自問自答すれば、確かにいつもこうだった。
なんとなくわかってきた今聞いてみると、随分と、これは。
そんな心境を知ってか知らずか、もっもっも、とサンドイッチを食べ続けるソニックはこの程度のことには完全に慣れているらしかった。
私も慣れていたはずだった。
先日のジェノスくんと手合わせをした時もそうだったが、気持ちの持ち方一つで全て違って見えてくるのだと学ぶ。そろそろ20代前半と名乗れなくなってくる年齢ではあるものの、まだまだ勉強できることは多い。
そろそろお茶だろうか、と紙コップに用意すると、丁度、ソニックがすっと手を出すのでお茶を手渡す。

「……」

熟年夫婦か!!?
こんなことをしていたかと言われたら確かにやっていた。

「お前は食べないのか?」
「ウ、ウン、タベル」
「調子でも悪いのか?」
「大丈夫」

私ももそもそと食べだして、しばらくすると、同じ様に丁度いいタイミングでソニックからお茶が手渡された。

「あ、ありがとう」
「ああ」

この先の旅が思いやられる。
私が項垂れると、ソニックはまた首を傾げて不思議そうにしていた。


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20160221:ひょえー
 
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