55 一緒に遊ぼう(ジェノス編)4
「幻滅した?」
なまえさんは少し寂しそうにそう言った。
「とんでもない、やはり、なまえさんはすばらしい方です」
クセーノ博士はしばらく唖然とした後に、すぐに俺を直してくれた。
なまえさんも手伝ってくれて、さすがZ市で一番愛されている修理屋なだけあると感じた。
やはり、どう転んでもすばらしい。
それにしても、すこしほっとしたような顔で笑うなまえさんは、俺に、幻滅されたくないという風で。
手も足もでなくてもっと落ち込むべきなのだろうが、嬉しいという思いが先行してしまう。
部屋でお茶を飲みながら話をする。
なまえさんはぽつりぽつりと、俺にいろいろなことを教えてくれた。
「勝とうと思うっていうのは、大切なことなんだね」
「? はい。そうでなければ、勝てませんよ」
「うん。動きも全然変わる」
「あの」
「うん?」
「なまえさんはどんな修行を? なまえさんにも先生がいたのですか?」
「どんな修行を、かあ。ソニックにあうまではろくにしてなかったっていうか、させてもらえなかったんだけど」
「はい」
「ソニックに会ってからはこう、違う人とかについていろいろ教えてもらったりした、のかな」
「何故そんなに曖昧なんですか?」
「いや。見たものをね、体がついてこれば再現もできるもんだから嫌われててさ。大抵鍛錬受ける時は目隠しつけてって感じで、痛めつけられた思い出しかなくってね」
「ソニックの奴は何をやっていたんですか!!!!」
「いやいや。言ってなかったし。一緒に鍛錬受ける時は普通だったし。だから、先生っていうのは、ソニックになるのかな。鍛錬とかやりたくないって弱音吐いたら、全部ソニックが見てくれるようになったんだよ」
「そう、なんですか」
「でも、見ているもの全部糧になっているから、みんなが先生、でもあるかもね」
「それは、貴方を傷つけた人も?」
「そうだね、もちろんサイタマさんやジェノスくんも」
「俺はなにも……」
「そうかな?」
「なんですかそれ」
「なんだろうね?」
なまえさんはふわりと笑う。
「あの」
「うん?」
「抱きしめてもいいですか?」
「へ」
目を丸くしてこちらを見た。
俺のような機械の体では痛いかも知れないけれど。
なんでもないことのように、ふわふわと語るなまえさんが、少しでも幸せならいいと思う。
その為に俺を利用してくれればいいのに。
「ごめんね、ありがとう」
彼女の言う様に真っすぐに見る、視線の先のなまえさんは笑っている。
ごめんねは、俺の言葉にうまく返せないことに対してだろうか。
ありがとうは、俺がこの人の幸せを願ったことに対してだろうか。
それとももっとなまえさん自身に関する理由だろうか。
どちらでもいい。
守られてばかりだけど、さっき本気を見せてくれたこの人のことを、俺が守る事ができるように。
俺が、広げていた両手をゆっくりと降ろし、ふと目を伏せると、ふわり、とやわらかい熱が頭に触れた。
「なまえさん」
さらり、とその手のひらが動くたびになんとも言えない気持ちになる。
ああ。
この気持ちが全て綺麗に、一滴も残らずに、この人のためになったのなら。
「君は強いよね」
「まだまだ、先生やなまえさんに全然及びません」
「私のは半分インチキみたいなものだよ」
「そんなこと」
まるで小さな子供にするように。
優しく頭を撫でている。
俺は子供扱いしないでくれとも、もっと触ってほしいとも言えないで、やっぱりなまえさんを見ているのだった。
「ありがとう」
そんな風に何度も、「ありがとう」と言わないでほしい。
まるで、これでおしまいみたいだ。
これで全ておしまいで、もう二度とこんな風に一緒に博士のところへ来たり、手合わせしてもらったりできないのではないかと思ってしまう。
「なまえさん、俺は」
どきどきしてほしい。
俺の言葉に行動に。
目が離せなくて頭から離れなくて。
そんな風になってくれたら。
そのままじっとみていると、なまえさんはふ、と俺の髪から手を離して、目を反らす。
その頬が、少しだけ赤い気がした。
「ほんとに」
俺の全てをかけて、幸せにできる。
そんな立場が欲しい。
「たぶん私は、君が居たからこんなに考えているんだろうね」
全ての想いが余す所無く伝わったなら。
そんな夢を抱いていた。
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20160220:難しいこのへん。