04 あなたは一体


私の営業所はZ市の、中心部のはずれにある。
限りなく東にあるその場所は、ゴーストタウンのすぐ側だった。
営業所はぎりぎり人がいるところにあるが、住んでいるのはまた違う。
とは言え、あまり営業所から家が離れていても不便なため、またすぐ側で、無人街故に安くなっていたアパートを丸々買い取り、部屋を改築してしまって住んでいる。
結構贅沢な、大きな家だ。
ここは、土地柄怪人が出たり、やたらと周囲を燃やし尽くすサイボーグがいたり、とんでもなく強いヒーローがいたりで家が損害を受けることもたまにある。
損害をうける、程度ならばまたいい。
全壊されると少し困る。
それだけだった。
それだけだったが、家の前で足まで切られていたサイボーグがべしゃりと地面に倒れて、そうまでしてこちらを呼ぶものだから、放っておくことができなかった。
怪人を動けなくして終わりと思っていたけれど、甘かった。

「はあ」

大きなため息。
意識を失ってくれたのなら、いつかの誰かのようにどうにか動けるようにだけしてそのあたりに転がしておいたのに。

「あの、なまえさん、ですよね」
「うん。そういう君は、ジェノスくん、だよね」
「名前を、知っていらしたんですか?」
「プロヒーロー。時々、お客さんがかっこいいって話してるよ」
「で、では、もう一人の」
「サイタマさん」
「そうです……」

パーツを拾って作業部屋へ持って行く。
ここに誰かが来るなんてソニック以外じゃあはじめてだ。
何度か往復して最後にジェノスくんに肩を貸して、どうにか部屋へ。
両足が切られていなくて良かった。
私の力ではジェノスくんは持ち上がらない。

「本当は触られたくないかもしれないけど、転がしておくわけにもいかないから、ごめんね」
「い、いえ、そんな。その、俺みたいなのも、直せるんですか?」
「動く、くらいには直せると思う。その他の難しいことはちょっと時間的に厳しいから、自分でなんとかしてもらう感じで」
「はい」

こうもすっぱり切られているとパーツを換えた方が早いかも知れない。
ロボットのパーツ付くだろうか、いや、それは流石にないか。多分サイボーグ用のパーツもなくはないだろう。時折修理の依頼が舞い込んでくるから暇な時弄ることもあったし。
少し探すと、骨格だけ組んであるシンプルなものが見つかった。
無言で作業を進めているが、何かを聞きたそうな視線が刺さる。
しかし、状況を整理しきれていないのか、私に遠慮しているのか特になにも聞いてこない。

「……」

聞いてこないのならば、好都合ではある。
あまり話したいことではないし、ここまでする気もなかったため、釘をささせてもらうことにする。

「ジェノスくん」
「は、はい!」

できるだけ抑揚のない声で、トーンは低く。
私は言った。

「申し訳ないんだけれど、詳細を話す気はないよ」
「概要だけでも聞かせて頂けませんか」
「割とぐいぐい来るね……」

しかも随分真っすぐにくる。
釘を刺したのは逆効果であった可能性が浮上するが、違う話題で彼を質問攻めにする、という逃げ方もある。
足が終わったので少しだけ力を貸して台に座ってもらう。動く? 問うと、足を曲げたりのばしたりした後に問題ありませんと言った。
元々ついていたものに比べたら些かシンプルすぎて、怪人に襲われたらすぐに壊れてしまいそうだ。
言っておくが壊れてしまいそうなだけで軽量化という意味ではこれに勝るものはない。壊れにくくもしてある。
足をつけて容量を得たので、そのままぱぱっと右手もつけてしまう。
彼の元々のパーツはこれ以上破損しないように私がパーツ持ち運び用に使うスーツケースに並べていれた。
左手はなくても大丈夫だろう。

「右手、動く?」
「はい」
「それならよかった。はい、これ元のパーツ」

ジェノスくんを外へ誘導しつつ、パーツを半ば押し付けるように渡す。
おもりがあっても、動作不良を起こしている様子はない。
私は玄関に立って、彼は終止複雑そうな顔でこちらをみていた。

「もしかして買い物とかいく途中だったかも知れないけど、勘弁ね」
「いえ、あの。なまえさん」
「ん?」
「最後に、一つだけいいですか?」
「……」

答えに迷う。
迷っている私をしばらくみていたジェノスくんだが、やがて足下にケースを置いて、ゆっくりと頭を下げる。

「助けて頂いて、ありがとうございました」

きちんと頭を下げきった後に言葉を発したジェノスくんに感心したり、立ち入った質問でなかったことに安堵したり。
しっかり数秒頭を下げていたジェノスくんが顔をあげると、真っすぐな目は私をみると少しだけおかしそうに笑った。

「お礼を言われるようなことなんて、なにも」

そう言う私は、やっぱり諦めたような、困ったような笑顔を浮かべる他なかったのである。


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2016/1/5:いつか頭を撫でたい。
 
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