54 一緒に遊ぼう(ジェノス編)3


「それはいいデータが取れそうじゃ」

笑っている場合か。
あれは冗談ではなかったらしい。
トレーニングルームに通されるが、冗談ではない。
私が奇跡的にサイタマさん相手に生きていられたのは、単にあの人が範囲攻撃をしてこなかったからだ。
残念ながら私は、動き自体はただの人間だ。
タツマキさんのような力にそもそも動けなくされたら簡単に死ぬだろうし。逃げられないくらいの、そう、ジェノスくんのようなぱかぱか範囲攻撃をしてくる相手とは相性が悪い。
場所がわかっていても無理なこともある。
ただ、ジェノスくんに抱きしめられながら思ったことは、それだけだった。
勝てるわけがない、とは思っていない自分に気付く。
勝つ気が起きないのは、サイタマさんの時と同じ。
それで正しいと思っていた。

「なまえさん、本気でお願いします」

正面のサイボーグはやる気満々と言った風で。
ソニックに散々言われた事を思い出して、サイタマさんの言葉も自然と脳裏をよぎる。本気でやったことがない、らしい。
うまくできるかわからないが、目の前のこの子を相手に。
勝ってみようか。そんなことを思う。
となれば、だ。

「サイタマさんの時と同じ様に条件をつけさせてもらってもいいかな?」
「はい!」
「なら、時間は同じく1分と、私は武器を使っても?」
「もちろんです」
「じゃあ、ちょっと待ってね」

―呼ぶから。

「え」

今回使うのは刀ではない。
刀であれば、まず真っ先に手足を奪いに行くところだけれど、残念ながら近付かせてもらえるとは思わない。
遠距離攻撃の範囲攻撃。
私の機動力では範囲外に出られないだろう。
故に、私はヘッドフォンの真ん中のボタンを両方同時に押す。

「……刀では、ないんですか?」
「何度も言うけど。私は強くない。サイタマさんのようにパワーもなければ、ソニックのようにスピードもない。そんな私が、ジェノスくんと対等に戦おうと思ったのなら、やっぱりこれしかなくってね。残念?」
「い、いえ、そんなことは決して……!」
「何て言うか、ね」

多分、この部屋の屋根を一部破壊してしまうだろうが。
まあ、あとで直して許してもらおう。
それにこのデータは、かなり貴重なものになるだろう。
程なく、天井に大穴が空いて外の空気が入り込む。
私の数歩後ろに着地したこの子も、久しぶりの戦闘で嬉しいに違いない。

「たぶん、結構強いと思う」
「っ、はい! ありがとうございます!」

ふわりと乗り込むと、正面に立つジェノスくんと目が合う。
うん。
小さく笑った私は、彼にどう見えただろう。
相変わらず師弟揃ってとんでもない変わり者だ。
私と、戦おうなんて。
戦った上で、好き、だなんて。
私みたいな女のことを、かわいくないやつって、言うんだろうに。

「じゃあ、はじめようか」

勝つ。
勝ってみる。
勝ってみたい。
丁度こんな気持ちだった。
負けることなど想像できなくて、あの時も、勝てれば良いと思っていた。
絶対に勝とうなんて気持ちはなかったけれど。
勝とうとしていた。
それで勝った。

「よろしくお願いします……!」

勝負は、一瞬。

「なっ!?」

飛び出したジェノスくんは相当に早くて、どうだろうか、スピード的には同じくらいか、設定、パーツ次第ではもう少し上がるだろう。
とにかく、サイボーグの機能を駆使して空中に居られると、生身の私は手が出せない。
得意なのは、近接戦闘。
ならば、離されなければいい。
ジェノスくんが飛んだ先に、私はいる。
右手で構えているのは、杭のようなものを高速で打ち出し、装甲内部にダメージを与える武器。
一撃必殺。
あのゲームのものを模して作ったものだ。
体の中心を捉えていたが、ジェノスくんが咄嗟に回避にうつった為に、右足が吹き飛ぶ程度で終わる。
概ね予測通りだ。

「うん」

ブーストを吹かして、距離を詰める。
ジェノスくんが何か攻撃をと、こちらに構えた右腕は、真っすぐにのばした時にはもう胴体とはくっついていない。
左手にはブレードを積んでいる。
その一瞬の動揺を逃す程私はできない忍びではなく。そのまま壁に押し付ける。
右手は、さっき見たコアのある部分に押し当てられている。

「勝ちでいい、かな?」
「はい……」

ソニックが怒るわけだ。
ずっとずっと、本当にずっと、随分適当な戦い方をしてきた。
次会ったら、謝らないと。


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20160220:勝つということ。勝とうと思うこと。
 
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