53 一緒に遊ぼう(ジェノス編)2


なまえさんは、少しだけ緊張しているような気がした。
博士の研究所の前で、胸に手を当てて大きく息を吐く。いつも、知らないヒーローにも営業したりしているのに。
かと思えば自分のペースを乱されるのが嫌だったり、人見知りな一面もあるのかもしれなかった。
けれど、いざ博士を目の前にしたならそういう弱さは一切見せないのだろう、今は間違いなくなまえさんの素の状態を見ることが出来ているのだと実感する。
メンテナンスが始まるとほとんど会話はなくなったが、なまえさんが。

「…………」

じっ、と。
こちらをみている。
否、正確には俺を見ているわけではなくて、俺ではなくて、そう、俺を見ている訳では無い。
だから、俺を見ているんじゃないけれど。
メンテナンスをしてくれているクセーノ博士も流石に困っていた。
なまえさんの、ただその好奇心と好きなものに対して向けられる熱のある視線は、怖いくらいに綺麗で。
何度俺ではないと言い聞かせても、じわじわと体温が上がっていく。
どくどくと、なにかが脈打つ音さえも聞こえてくる気がした。

「ジェノス……」
「すみません、博士」
「? どうかした?」

なまえさんは首をかしげる。
この人は、例えば俺がじっと見ていてもこんなふうにドキドキしたりはしないのだろうか。
どうしたの、なんてこうして首をかしげるのだろうか。
後で試してみるか。
それとも、怖いからやめておくか。
そんなことよりも、熱を冷まさなければ。
とは言え、なまえさんに本当のことを言える気はしない。

「なまえさん、ここから先は企業秘密でな。せっかく来てもらって悪いのじゃが……」
「あ、それは失礼しました。えーと、外を散歩してきてもいいですか?」
「す、すいません、なまえさん」
「別に謝ることなんかないけど……、終わったら携帯に連絡くれる?」
「はい!」
「じゃあ、また」

なまえさんは、まるでここに来たのがはじめてではないかのように、真っ直ぐ歩いて外へと向かった。
俺はできるだけ明るく見送るが、本当は引き止めたかったような、そうでないような、とても複雑な気持ちだった。
あの視線を思い出すとまた体が熱くなる。

「すみません、博士」
「ああ。それにしても、本当にあの子のことが好きなんじゃな」
「はい」

博士は少しだけ笑うとそれ以上は何も聞かなかった。
聞かれなかったけれど、俺はどうにもぺらぺらと、ずっとなまえさんに関する話をしていたと思う。
博士は、聞いていてくれたかは分からないけれど、それでも時折頷いてくれていた。
何を話したのか。
その時の俺はすっかり熱に侵されて、浮上しては掴めないなまえさんのことばかりを考えていた。
それはもう愛しいなまえさんのことと、尊敬する先生のこと、憎らしい忍者のこと、それから、なまえさんのことが好きで仕方が無い俺のこと。
ずいぶんたくさんの話をした。

「ありがとうございます。俺に人間の要素を残してくれて」

完全に人ではなくなっていたら、きっとこんな気持ちにはなれなかった。
それどころか、ほかの何が欠けてもこの日は来ていないしこの俺はいない。

「何を言うておる……、ほれ、迎えに行ってあげなさい」
「はい! いってきます!!」

なまえさんと、今日はずっと一緒にいられるのだ。
何を話そうか。
何を話してくれるだろうか。
研究所を出ると、なまえさんはすぐ近くで空を見上げていた。
ちょうど帰ってきたところだっただろうか。
勇んで出てきた手前少し恥ずかしい。

「」

名前を呼ぼうか迷う。
さあ、と風が吹くと、その背中は寂しげにみえた。
近付くが、なまえさんにしては珍しくこちらに気付いていないようだった。
チャンス、なのだろうか。
それとも、わかっていて、気づかないふりをしているのだろうか。
サイタマ先生と互角に渡り合うとは思えないほど華奢なかたに手を伸ばす。
ゆっくり。
その手が彼女に触れるか触れないかというところで、名前さんはぱ、と振り返った。

「あ、終わった?」

きっとすべてバレているのだ。
こんなおかしなポーズで固まって、なにをしようとしていたかなんて。

「なまえさん、お願いがあります」
「ん?」
「俺とも手合わせしてください」
「え」

ぴたりと固まる、その隙に俺はなまえさんを腕の中に閉じ込めた。


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20160218:油断する。
 
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