52 一緒に遊ぼう(ジェノス編)1
「おはよう、ジェノスくん」
「おはようございます! なまえさん!!」
ジェノスくんは元気だ。
彼を連れ出すのは割合に簡単で、携帯電話に連絡を入れたらすぐに出てくれた。
「どこかへ行こうか?」と言うと「お待ちしてました!」と明るい声。
「行き先は俺が決めてもいいルールですよね」と言うジェノスくんに、ご自由にどうぞと笑うと、彼は間髪入れずに、言った。
「明日から二日間空けておいてください。泊まりになるので、そのように準備をお願いします。朝、9時にお迎えにあがります。それでは」
相変わらず強引だった。
そして珍しく必要なことしか言わなかった。
泊まりになろうが別に断る気はなかったが。
サイタマさんの時もあれは、いろいろと違う気がするが家に泊めてもらったも同然なのだから、他の人にそれを嫌がるというのはおかしくなってしまう。
断られると、思ったのだろうか。
相変わらず、面白いサイボーグだった。
出会ってすぐの私なら、どうしたのだろう。
多分、ずっと困った顔をして、間違っても楽しもうなんて考えられなかったに違いない。
そう思うと、やはりすごい変化だ。
幼馴染みのソニックという立ち位置は不動であったが、彼らもまた同じような場所に来た、と、そういうこと、だろう。
「では行きましょう! お荷物お持ちしますよ」
「………ありがとう」
がし、とボストンバックの持ち手を持ってから言う。
別に持っていただかなくとも大丈夫だが、そんな問答は無意味な気がしてやめておく。
素直に甘えておくかと礼を言うと、いつも以上に元気な、「はい!」の返事が返ってきた。
私もなにかしてあげたいような、そうでないような。
自分の荷物はリュックに入っているようで、空いた片方の手は虎視眈々と割とわかりやすくこちらの手のひらを狙っていた。
「で、今日はどこへ行くの?」
「クセーノ博士のところです」
「うん?」
「クセーノ博士のところですよ」
「んーー? なぜ私も?」
「嫌ですか?」
「嫌ってことはないけど」
「それならよかった」
歩き出す、ジェノスくんのあとについて行く。
「機械がお好きなら、きっと面白いかと」
「そう、だろうけど。いいの? 私が行っても」
「はい。クセーノ博士にはもう了承をもらっていますし、博士もなまえさんに一目会いたいと」
「そうなの?」
「そうです。俺がよくなまえさんの話をしますから」
なんだかなあ。
彼は相変わらずで、ちらりとジェノスくんの方を見たら当たり前のように目が合った。
距離もだいぶ近い。
ぴたりと隣を歩いている。
「とても強くて、素晴らしい女性だと」
「……いうほど強くも、素晴らしくもないけれどね」
照れ隠しである。
純粋な賛辞の言葉は素直に嬉しくて。けれどあまりに大げさな言葉に照れる気持ちが先に来てしまった。
ジェノスくんにもそれがわかったらしく、彼はすこし楽しげだった。
「なまえさん」
「ん?」
「答えは、出そうですか?」
「出さなきゃなあとは思ってて、出したいとも思ってるよ。でもいざ近づいてみれば、どれだけ好きでいてくれているかわかるばっかりで、一歩進むごとに覚悟し直しって感じ、だね」
「なまえさんは、全く恋愛に興味がなかったんですか?」
「なかった、ことはないけど、想像出来なくてずるずるここまで……」
「それなら、結婚も?」
「それこそ少しも想像出来ないよ」
「そう、ですか」
「うん、」
ジェノスくんは。
そう聞こうかと口を開きかけて、やめた。
やめてどうする。
それは知らなければいけないことだ。
真っ直ぐこちらを見てくれるジェノスくんと目が合う。
逃げるな。
「、ジェノスくんは?」
どう思う?
私より年下でずっとこちらに向かってくれる、多分私よりずっと強い君は、何を思って考えて、どうして私を選んでくれたの?
それとも、理詰めの君が、直感だったりするのかな。
強くなるのに、恋人は邪魔じゃないの?
人を気にするの面倒では?
恋ってなんだと思う?
まるでこの子のように、すべてを素直に聞けたならそんなに良いことは無い。
私の不器用な質問に、ジェノスくんは少しだけ考えた後に答えた。
「俺もあまり、考えたことはありませんでした。恋愛にも興味がなくて、ただ強くなれればいいと思っていました」
本当に伝えたいことはなにか?
一言一言をずいぶんと大切に話している、そんな感じだ。
「この頃は、ただ、貴女のことを考えています。けれど……、恋人になれたら、とか、結婚したら、なんていうのは、実は俺もあまりうまく想像出来ないんです」
ジェノスくんは言う。
「でも、やってみたいことはたくさんできました」
がしっ、と片手が掴まれる。
あ。
「もっと油断していてくださいね」
気付いているだろうか、その声音がひどく甘いことに。
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20160216:一本調子にならないようにしたい、が。