50 一緒に遊ぼう(サイタマ編)5


なまえは宣言通りに俺に昼飯を奢って、あとはずっと少しずつ眠そうにしていた。
それでもなんとなくこの時間が惜しくて帰ろうとは言い出せずにいた。
少し悪いことをしたかもしれない。
なまえはやはり、眠っていないのだろう。
帰り際甘いものを食べたら眠気が襲ってきたようで、遂に電車で眠ってしまった。
よくこんな時間まで起きていられたものだ。
そうかと思えば、ふ、と肩が軽くなる。

「ん、あれ。私寝てましたか?」
「なんだよ、まだ寝てたほうがいいんじゃねえの?」
「いえ、あ、肩すいません。ありがとうございました。ヨダレとか大丈夫でしたか?」
「おう」

わずか10分ほど俺の肩にもたれて眠っていただけで、今はめをぱちぱちさせて、すっかり意識がしっかりしているらしかった。
もともと無理ができる体なのか、無理をしていたら慣れたのか。それはわからない。

「無理すんなよ」
「はい」
「わかってんなら、いいんだけどよ」

わかっているならいい。
もし、何のことかわからないと首を傾げられたなら、どうしていいかわからなくなってしまう。
もっとも、なんのことかわからなくても、雰囲気で演技をするくらい、なまえにとっては造作もないことなのだろう。

「サイタマさん……」
「ん?」
「あの大変申し上げにくいのですが」
「え」

前振りに、嫌な予感が込み上がる。
もしかしたら選ばれるかもなんてやっぱりない話、だったのだろうか。
笑ってくれても、遊びに行っても。
それでも、選ばれることはないのだろうか。
そりゃあそうかもしれない。
ヒーローなんかじゃなくて、もっと真っ当な奴だって、必ずなまえを好きになる。
なまえにとって俺は。
それでも俺はなまえを。

「怪人です」

俺はやっぱり、え。なんて間抜けにいうだけで。
なまえには、何が見えているだろう。
俺は、やっぱりそれを、知りたいと思う。
知れないのならせめて、俺のことを知ってくれたなら。
俺にはさっぱりわからない。
なまえの視線の先には電車の窓があるだけで。
俺達はその窓に近づいて、なまえが、するりとヘッドフォンに手を伸ばしたのでその手を制してそっと抱き寄せる。
ここは電車だから、驚いた顔がいくつもこちらを見たけれど、知るか、もしかしたら、これが最後かもしれないんだから。
こんなふうに覚悟したなまえが、答えを先延ばしにし続ける訳がない。
だから、めいっぱい格好つけて。
あとはいつも通りだ。
びた、と前触れなく窓に張り付いた怪人。
乗客は俺達よりそっちに気づいて逃げ惑う。その方がいい。
がんがん、と数度窓に頭を打ち付けると、そいつは電車内へと入ってくる。

「あぶねーだろ」

何か言っていたようだけど、いつものように頭に入ってこなかった。
この列車は俺が占拠したとか、きっとそんなん。
なまえなら綺麗に避けたのだろうか?
やっぱりただの一撃も目の前の怪人には耐えられなくて。
つまり一撃で終わってしまう。
ついでに、余計に電車に穴を開けてしまった。

「サイタマさん……?」
「せっかく風呂入ったのにな」
「そうですねえ、でも、流石でした。ありがとうございます」

その笑顔はあの時から変わらない。

「ありがとう、か」

それは俺のセリフかもしれない。

「無事なら何よりだ」

抱き寄せる手の力が、強くならないように気をつける。

「そうやって笑っててくれよ」

その姿を。
一番近くで見られたら。

「なまえが笑ってると、なんかすっげえ安心する。やっぱり、好きだから、なのかな」

怪人の返り血を浴びて言うことではないけれど。
この感じがどうにも、俺となまえに良く似合う、そんな気がした。


----
20160211:荒廃した世界にたったふたりでも生きていける。
 
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -