49 一緒に遊ぼう(サイタマ編)4


サイタマさんは、はじめての大きな銭湯にいたくテンションを上げていて、ああ、一緒に来てよかったなあと思った。
お風呂は流石に別々なので、早く上がったら漫画コーナーで時間を潰していることを約束して別れた。
いつもはあまりゆっくりお風呂に入るほうではないけれど、こういうところに来ると、なんだかあがるのが勿体ないような気がする。
まさか、サイタマさんと一緒にこんなところに遊びにくるようになるとは思わなかった。
いつだかソニックと来たときには、あの長い髪と綺麗な顔のせいで、私を待っている時にナンパされたらしく、一暴れして施設を半壊させていた。サイタマさんならそんな心配はない。
怪人が出たら、きっと半壊では済まない、のだろうが……。
その時、絶対にソニックと一緒に来てはいけないと心に決めたけれど、髪が短くなっている今なら、あるいは大丈夫なのかもしれない。
そもそも、犯罪者二人そろって人が集まる所に行ったのがいけなかった。
そういう観点から言えば、私が、ヒーローから言い寄られる、というのも幾分かおかしな話である。
そんなことは、今更、だ。
お風呂から出ると、借りた岩盤浴用の服に着替えて、漫画コーナーへ。
どこか目立つところでジュースでも飲みながら待っていようと思ったけれど、既に自動販売機の前で何か迷っているサイタマさんを発見した。
近付くと、私に気付いて、あ、と小さく声を漏らす。

「ほら、どっちがいい?」
「あ、ありがとうございます。どちらでも大丈夫ですよ」
「じゃあ、………、いや、どっちがいいんだよ」
「ええ?」

余った方をもらう流れのはずが。
差し出されているのは牛乳とコーヒー牛乳だ。

「なら、こっちで」
「おお。コーヒー牛乳な」

とん、と隣に座って牛乳瓶を開ける。
そのままごく自然な流れで、お風呂の感想に入る。

「それにしても、なんかいろいろあって楽しかったな。たんさんせん? とかなんか体に良さそうだし。これからする岩盤浴ってさ、サウナみたいなもんだろ? いろいろ考えるよなあ」
「そうですね。以前来た時は、ソニック女の子と間違えてナンパされてたんですよ」
「マジで? まあひょろっとしてるし、髪長かった頃なら、仕方ないのかもな。っていうか、なまえは大丈夫だったのか?」
「え」
「ここにくるまでに変な奴に声かけられたりしなかったか?」
「はは、大丈夫ですよ」
「ほんとかよ」
「はい」

こく、ともらったコーヒー牛乳を飲むと、ほどよい甘さがなんだか体に染み渡った。
お風呂がやけに体を癒した気がしたのは、そういえば、私は昨日からゲームしかやっていないからだろうか。
それはやっぱりまずい気がする。
徹夜で遊んだあとに更に遊びにくる、なんて。
そんな無茶はやめたほうがいい。倒れたら、みんなに何て言われるかわかったものではない。
みんな。

「気をつけろよ」
「はい、ありがとうございます」

ソニックは呆れてため息を吐くだろう。
ジェノスくんはなんだかよくわからない方向へ気持ちを向けて止めるのが大変そうだ。
サイタマさんはこうして心配するのだろう。
みんな、と、ひどく自然に出て来た言葉に一番驚いたのは私だった。

「岩盤浴、行きますか」
「おう」
「お腹空いたら、ご飯食べましょう」
「そーだな」
「ごちそうします」
「いやあ、なんか悪いな」
「いえ、私の方がひどかったと思いますよ」
「なんか人格違ってたもんなー」
「……すいません」
「まあそんだけ俺に慣れたってことだよな」
「そんな動物みたいな……、似たようなものですが……」
「認めるのかよ」

可笑しそうにサイタマさんが笑う。
電気修理屋としてのお客さんにも、小学生にも隙あらば恋について聞いたりするが、やはり答えることはみんな違っていて、みんなきっと、私と同じように悩んだ時期があったのだと思う。
それを私が横からかすみ取ろうだなんて、都合のいい話だった。
おそらく、自分で考えて、それで納得するしかないのだろう。

「お、あの部屋行ってみようぜ」

年上、年下、幼なじみ。
この先のことが想像できる人、できない人。
真っ当な人、そうでない人。
優しい人、かっこいい人、かわいい人。
見ていてくれる人、引っ張ってくれる人、ついてきてくれる人。
どんな人がいい?
多分それは、私にしかわからないこと。
例えば、一年後の私はどんなだろう。
誰と一緒にいるんだろう。
こんなこと。
考えたことがなかった。
とても楽しみで、少し怖い。

「はい、あの、サイタマさん」
「ん?」
「あ、えっと、」
「え、もしかして順番とかあるのか?」
「いえ、そうでなく」

こんな気持ちを教えてくれたのは、間違いなくこの人と、それからもう1人なのだから。
選ぶ選ばないに関係なく言っておきたい言葉がある。

「ありがとうございます」
「え、コーヒー牛乳? そんなうまかった?? 後で俺も飲もうかな……」

そうではない、が。
もしかしたら、わかって茶化しているのかもしれない。

「久しぶりに人間してるなって気分です」
「……、お前はいつだって人間だっただろ」

好きになってもらえただけでありがたいのに。
選ぶなんて、なんて上からなんだろう。
でも、選ばないのも先延ばしにするのも、やっぱり私にはできないのだろう。


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20160208:選ぶのも選ばないのも遠ざけるのも、どうせ辛い。
 
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