47 一緒に遊ぼう(サイタマ編)2


やっぱり俺は、なまえに勝つ事はできないのかも知れなかった。
はじめは、困った様に笑うことが多かったなまえではあるものの、最近はすっかり俺やジェノスに慣れたようだった。
ソニックのように、という風にはなれないが、間違いなく友達、と言えるだろう。
友達と楽しくゲームをする。
その楽しいが、一緒にいたいに変わったなら。
そんな風に思っていたなら、遊ぶゲームは選ぶべきだった。
俺はなまえがどれだけあのゲームが好きか知っていて、なまえがあのゲームを前にするとどうなるのかもよく知っていたはずなのに。
このゲームをしようと誘ったときに、少しだけなまえがためらったのは、様々な理由からではあろうが、俺はこの可能性を考慮しなければならなかったのだ。
楽しそうななまえは今は俺だけのものだったけれど。
俺が先につぶれていては世話はない。
しかし、なんだか、目覚めはいつもより穏やかだった。
ふわりと香る、緑茶の匂いで目が覚めた。

「あ、おはようございます。サイタマさん」
「ん、え……」

日付が変わったところまでは記憶があるのだけれど。
ずっとここにいてくれたのだろうか。
でもなんだか。
いつもと違うような。

「サイタマさん? 起きてますよね?」

近くに寄るなまえから、ふわりと香るのは。
家で使っているのと同じ、石けんの。

「………あ、そういえば勝手にお風呂借りました」

鼻でもひくひくさせていただろうか。
バレてしまって少し恥ずかしい。
肩に伸びかけた手も引っ込めて、頭をかく。

「いやそれはいいんだけど………。ちょっとやばいよな」
「やばい?」

なまえは首を傾げて不思議そうにしている。
すぐそばでしゃがんでいたけれど、ぱっと立ち上がって鍋の様子を見に戻っていってしまった。
あくびをする俺に、楽しそうな声。
正気に戻った時に落ち込むかと思ったが、あまりそういう様子ではない。
よほど美味くできたのか、それともなにかいいことでもあったのだろうか。
単純に、ゲームを楽しめたから嬉しいとか、そんなことかも知れない。

「そんなことより朝ご飯作りましたよ。昨日はすいません。なにをやらかしたのかあんまりよく覚えていませんけど」

ただこの瞬間だけを切り取ると、まるで恋人同士のようだ。
なまえは朝飯を作って、俺はぼーっと起きて来て。
いきなり結婚を申し込んだあの時は、ただこうなったらいいと思っていたけれど。いざこんなシーンになると、どうしたものかと思ってしまう。
独占できればいいのに。
けれど、ジェノスも、ソニックもいる。
難しそうだ。
難しそうだけれど、俺となまえならば、同じ世界が、きっと見える。
そんな気がしている。

「まあ、いいって言ったの俺だしな」

こちらに持って来てくれたみそ汁は豆腐とわかめ、ネギが入っている。
卵焼きもあって、すごくうまそうだ。
それから、白いご飯と、お茶。
至れり尽くせりとはこのことだ。

「お詫びに!」
「え、なに?」

いつもより高めのテンションは、寝ていないから、なのだろうか。

「スーパー銭湯行きましょう! ご飯もごちそうしますし!」

銭湯。
スーパー銭湯?

「なんだそりゃ?」
「まあ、基本は銭湯です。気になってた場所があるんです。行きませんか? ゲームに付き合って頂いたお礼とお詫びに」
「いや、その、なんつーか、こんなこと言うのもおかしいんだけどさ。俺でいいの?」
「え」
「誘ってくれるのは嬉しいんだけどさ」
「あー、うーん、と」

俺を遊びに誘うのは。
一体どうして。

「最近できたので、結構人気なんです。だから、ジェノスくんとかソニックとか連れてくと目立っちゃうかなあ、と。一人で行ってもいいんですけど、折角なので、ご一緒にどうですか?」

なるほど。
なかなかがっくりくる理由だ。
まあそうだ。
顔では敵わない。
それ以外なら、なんだろう。
強さとか。
ハゲが好きならいいけど。
嫌でも考えてしまうが、でも、今はいいか。
それでも、やっぱり俺が遠慮する理由にはならないし、たまらなく好きなんだから仕方が無い。
こいつの唯一になりたいんだから仕方ない。
点数は一点でも上げたい。

「それじゃ、行くか」
「ほんとですか」
「おう」
「やった! それじゃタオルとか持って行くので一度家に寄らせて下さい」
「タオルくらい貸すけど」
「まー、これでも女子なので他にもいろいろあるんですよ」
「あ、そ、そう?」
「はい! 朝ご飯食べたらすぐ行きましょう!」

かなりうまかった。
毎日になったら、やっぱりそれは、幸せでしかないんだろう。


----
2016/2/6:ただひたすらにお互いに憧れる。
 
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -