42 いつもの公園


「今日はガキどもと一緒じゃねーんだな」
「まあ、平日の昼間ですからね」
「平日の昼間からこんなところでぼーっとしてっとあぶないかもしれねえぜ。悪い怪人に襲われたりな」
「平日の昼間に人を襲うなんて怪人も忙しいんですねえ」
「ははは! 怪人もいろいろ考えてるってか! あんたさては面白い奴だな?」

変な人に声をかけられた。
多分武術の心得があるだろう、体つきや所作から、推測する。

「……これどうぞ」
「ん? なんだこれ」
「修理屋のなまえと言います。よろしければご利用下さい」
「ふーん。なまえさんね」

隣にどっかりと座る。
どうやらお互い暇なようだ。
こんな完全に気を抜いている時に人と関わるなんて、前までならしなかったなと思い返す。
サイタマさんやジェノスくんに会って、割合に人とすぐに仲良くなれるようになった気がする。
人はかわっていくものだなあ、なんて改めて実感した。

「実はいま考えてることがあるんですけど、意見をもらえたりしますか?」
「ん? なんだ、面白い話か?」
「例えばお兄さんが、えーと、20年くらいずっと一緒の幼馴染みと、他2人の美女含む三人から好意を寄せられたらどうしますか」
「状況がざっくりしすぎじゃねえのか」
「参考までに聞きたいだけなのでこれでいんです」
「そりゃ、一番好みの奴にするだろ」
「好み、好みですか。うーん」
「そういう話好きなんじゃねえの?」
「あー、私は難しいんで得意じゃないんですよね」
「変な奴だな。そんなことより、俺も気になってる事聞いてもいいか?」
「はい、どうぞ」
「それ、刀だよな」
「ん? ああ、護身用ですよ。自分の身くらいは自分で守ります」
「ヒーローじゃないのか」
「名刺渡したじゃないですか。家電修理屋ですよ」
「今時の修理屋ってのは護身用に日本刀を持ち歩くんだな」
「元忍者ですからね」
「……忍者? あんたがか?」
「えー、っと。あー」

ごそごそとポケットの中をさぐると、すい、と一本の忍具が出て来た。
布が巻いてあるが、これが活躍することはあまりない。

「へー。たしかにぽいな」
「でしょ。そういうお兄さんは?」
「俺? 怪人」

語尾にハートでもつきそうな上機嫌。
少しだけ反応に困る。
ふむ。

「へえ。人間を襲うのに忙しくないんですか」
「なるほど。そういう反応になるわけか」
「貴方と大差ありませんよ」
「ガロウ」
「ガロウさんと大して変わりません」
「敬語もいいって。20年ってことは、多分俺より年上だろ」
「営業したから、一応ね」
「はは、確かに。これはありがたくもらっとくけど」
「どうぞ。いくらでも作れますから。ガロウくんの分も作ろうか。怪人名刺」
「はははは! そりゃいいな!」

楽しそうに笑う彼は、怪人には見えなかった。
怪人になりたい、という話なのか。それとも悪役が好き、という話なのか。深いところはわからなかったけれど、私となんの問題も無く話をしている、そして楽しそうにしているこの姿を見る限りでは、人間でも怪人でもどちらでも構わないような気がした。
それにしても、彼は『好みの奴にする』と口にしたな。
そういうものなのだろうか。
好みがないのは、どんなだっていい、と思っているから、かな。
目の前の彼のことも、危ない気配はないし、人間でも怪人でも関係がない。
いつだって、私にとっては、問題があるか無いかだけで。

「こんなとこで話してるだけってのももったいない話だな」
「そう、かな?」
「遊びに行こうぜ。なまえさん」
「え」
「どこでも空いてるぜ? なんたって平日の昼間だからな」
「うー……ん、確かにこんなところでぼーっとしているくらいだから暇、だけ、ど」
「なまえさんの恋愛相談に乗ってやるって言ってんの! なんか楽しそうだ」
「それはありがたい、のかな?」
「なまえさんよ、小学生相手に遊んでるくらいだから友達いねえんだろ」
「ガロウくんも、こんな暇な家電屋遊びに誘うくらいだから友達いないでしょうよ」
「じゃ、ま、オトモダチってことで」
「んー。うん。オトモダチ」

そうやって、手を出されたのははじめてかもしれなかった。
いつも見ていたのは手のひらだけど。
こちらに拳をのばす、ガロウくん。
これに応えるにはこちらもそっと拳を向けて。
ごつ、と思ったよりも強く殴られて痛かった。
このやろう。
少し睨むと、ガロウくんは楽しそうに笑って。なるほどこれは確かに友達だと嬉しくなった。
最近は小学生に哀れまれるばかりで、ただ楽しむために遊びに行く、というのは久しぶりかもしれなかった。


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20160131:ガロウにするか、フブキにするか、近所の小学生にするか迷い倒した結果。
 
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