41 あなたと戦いたい3


時間ですよと告げて、サイタマさんがいつもの調子に戻った時。
抑えていた恐怖が湧き上がる。
体が震えている。
手に力が入らなくて刀を離してしまいそうだ。

「やっぱすげえな。お前の勝ちじゃねえか……。謙遜しやがってよー」
「とんでもない」

バレないうちに地面に座る。
こんな人に真正面から挑んでいくなんてやっぱりソニックは強い。
私なんかは勝つ気も起きない。

「もう1回って言ったら怒る?」
「もう2度としませんよ」

こんな怖いこと。
なんで私は生きているんだろう。
殺されていてもおかしくなかった。
本当に、本当に良かった。
なんとか生きている。

「そっか。まあそれでも、なんつーか、こんなに苦戦したっつーか、うまくいかなかったっつーか、なんて表現したらいいかわかんないけど。楽しかったぜ」
「それはなによりでした」

座っているのも辛い。
あんなに集中したのは久しぶりだ。
ついに地面に仰向けに倒れて目を閉じる。

「なあ、なまえ」
「なんですか」
「やっぱり結婚するしかないと思うんだけど」

薄く目を開ける。
なんて答えよう。
結婚は、相変わらず想像できない。
この人と一緒にいて子供を産んで、別にいい。でも、適当に決めてはいけない。
ジェノスくんや、ソニックがいなかったら、そもそも私はいないけどでももしそうなら、そろそろ、適当に、そうしようかとか言っていただろう。
覗き込む目がゆっくり近づく。
真剣な顔だったが、は、と気づく。

「あれ? なんか震えてる?」
「よく、ジェノスくんもソニックも真正面から行くものですよ。私はこの通り、怖くて震えが止まらない」
「……一撃も、かすりもしなかったけど」
「一撃受けたらおしまいじゃないですか。いくら鍛えたと言っても私は普通の人間ですから」
「全部避けるんだもんなあ」
「あなたは真っ直ぐにしか来ないから、読む分にはどんなに早くても読めるんです」
「うーん、そんなことはじめて言われたな」
「嬉しそうですね」
「ああ。最後は、俺も怖かった。付き合ってくれてありがとな」

小手先で凌いだだけだ。
もう二度とゴメンだ。
帰りたい。
いろいろ言いたいことはあったけど、サイタマさんがあまりに楽しそうに笑うので、私もどうにか笑って、どうにか上体を起した。

「先生!!!」

ジェノスくんがサイタマさんに駆け寄る。
土がついてしまった私の背中に触れたのは、ソニックだった。

「帰るぞ」
「うん、お願い」

ソニックは珍しくサイタマさんに突っかかることなく、その場を静かに離れて行った。
みんないつの間に、こんなに近くに来たんだろう。
いつの間に、私のことを知ったんだろう。

「ソニック」
「心配するなと言っているだろう」
「私、は」

誰でも良かった。
仕事をくれるなら誰でもいい。
連れ出してくれるなら誰でもいい。
仲良くしてくれるなら誰でもいい。
好きになってくれるならだれでもいい。
隣にいてくれるならだれでもいい。

「それでも構わん」

ソニックの言葉は嘘だと、今はわかってしまう。


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20160130:はじめて誰かを選ぶ時。
 
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