40 あなたと戦いたい2


無人街のさらに先、何故か焼かれた後や削られたあとが残るこの場所で、手合わせを、という運びになった。
手合わせ、なんてぬるいもので終わればいいが。
目の前にいるのはヒーロースーツのサイタマさん。
ソニックではない。
ソニックとは、何度か本気で戦ったことがあって。
その大体がくだらない喧嘩だったのを覚えている。
今回のことは。
たぶん、私が安心してこの人に接するため、だろう。
サイタマさんが時々する、好意とは違うギラリとした目が、ひどく綺麗で、この上なく怖い。
この1分。
もし、私が生き残ることができたなら、その後どうなるのかはさっぱり想像出来なかった。

「いいか?」

少し離れたところから、サイタマさんが言う。
楽しそうで何よりではあるが、私は必死で集中する。
戦おうと思って戦うのは久しぶりだった。

「いつでもどうぞ」

サポートは好きだ、でも、ひっぱっていくのは苦手だし、しようとも思わない。
もともとソニックのサポートをしていくことを念頭に置いて鍛錬したし、殺されないために何度かソニックと手合わせをしただけだ。
今日は声をかけていない。
いなくてよかった。
居たら、たぶん逃げてしまう。
でも、見ていてくれたら嬉しい。
そんなふうに思った。

◆ ◆ ◆


「こんなところで何をしている」
「黙っていろ変質者」
「覗き見とは悪趣味だな」
「お前もだろう」

掴みかかってこないのは、目の前の光景を目に焼き付けておくべきか。それとも、そんなことを考える余裕はないのだろうか。

「……なまえの戦い方はお前には参考にならん」
「どういう意味だ」
「そのままの意味だが?」

先に動いたのはサイタマだった。
本気の動き、ではないようだ。
弾丸、というよりは砲弾のような一撃を躱す。
一度目はまぐれかもしれない。
二度、三度続けば、段々とサイタマの動きが良くなっていく。
なまえを試すとはいい度胸だ。
流石は俺のライバルと言える。
しかし、残念ながら。

「なまえさんには、見えているのか……?」

サイボーグの思考も残念だ。
間合いは刀分だけなまえの方が長い。
こちらには何が起こっているのかわからないが、なまえが刀を振った先にサイタマがいて、その度に距離をとる。
あの刃は、サイタマの体に傷をつけるだろうか?
考えている間になまえは、サイタマの攻撃を避けて、
連続のパンチは空を切る。
地形が変わっていく。
なまえは生き残るのに必死だろう。

「おい、なまえさんは一体どんな鍛錬を積んだ?」
「お前に教えてやる義理はない、と言いたいところだが後でなまえに付きまとわれても迷惑だな」
「見えているのか? 先生の動きが」

また、なまえのすぐ横に大穴が開く。
なまえは。

「見えていない」
「!!? そんなはずがあるか!」
「覚えているだけだ。サイタマがどんなモーションで敵を殴るのか、本気を出したスピードがどの程度のものか……。覚えていて、その上で思考している。だから、あいつは何も無いところに向かっているようだが、あいつが武器を振り下ろす先には、」

また、サイタマがなまえから距離をとる。
なまえはサイタマを倒すことはできないが、サイタマもなまえに対して優位に立つことはできない。
よく見れば、ヒーロースーツがさけている場所がいくつかある。
すう、となまえは刀を構える。

「必ず」

動きなど前情報があれば見る必要すらない。
あいつの怖いところは決して相手の動きをトレースする事なんかじゃない。
相手の動きを先読みする力がずば抜けている。
どれだけ早く動こうがどんな力を持っていようが、
なまえの刃は的確に急所だけに向かってくる。

「っ!」

金魚の糞野郎は、言葉がないようで黙って、そしてじっと戦いを見守っていた。
それでいい。
俺達は詳しいことはわからないが、それでもなまえが何の制約も設けずにこんなことをするとは思えない。
1分間、と言ったところだろうか。
そろそろ、終わるだろう。
サイタマがわかりやすく仕掛けに行く。
名前は見えなくて当然というようにただそこに立ち尽くして。
おもむろに、刀を地面へ向け、足元の砂をはね上げる。

「先生……!!」

呼ぶ名前は、それでいい。
サイタマが視界を奪われ動きを止める。
動きを止めた時点で、もう死んだも同然。
しかし、そこでなまえがサイタマに追い討ちをかけるようなことはなく。
何か言って、そして、終わったらしかった。
サイボーグも俺も無言のままその荒れ果てた土地に近づいた。
なまえは、誰にも適わないと言うけれど、俺もまたなまえに勝つことは出来ない。
あいつに勝つ気のないうちは、おそらく、誰も。


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20160130:生き残ればいい。
 
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