39 あなたと戦いたい


理由が無い。
俺とジェノスはそう、珍しく同じことを思っていたんじゃないだろうか。
あの大会のあと、フィギュアはキングから俺に渡り、けれど、なまえが見に来ることはなかった。
キングはただただなまえのゲームの腕を褒めたけれど、俺たちは実際のところどうなのかひどく気になっていた。
傷付けたいわけではない。
俺も同じように楽しめたらと思うだけだ。

「よ」

考えていても埒があかない。
俺は単身なまえのところへやってきた。
インターホン5度目で出てきた。

「……そろそろ来る頃かなあとは思ってましたが、えらく唐突ですね」
「まあ、な。たぶん、来た理由もわかってると思うんだけど……」
「言っておきますが、買い被りです」
「そんなことねえと思うんだけど」
「お話になりませんよ、私では」
「そんなふうに思ってんの、お前だけだって」

そこで、立ち話もなんだからと家に入れてもらえた。
うーん。
前までなら嬉しさだけを持っていられたけど、今はなんだか期待してしまう、いや、そういういろっぽい展開じゃなくて、目の前の強い人間に、期待してしまう。
何が見えているんだろう。
なまえには、この世界はどう見えている?

「ほんとのところを教えてくれよ」
「……」

どんなことを考えているのだろう。
なまえは、少しうつむいて考えた後に、燃えるような輝きを放つ視線をこちらへ向けた。
表情は変わらなかったと思うが、心臓がどくりと音を立てる。
怒らせたいわけじゃない困らせたいわけじゃない。
笑っていて欲しいけれど1度でいい。
たった1度でいいから試させて欲しい。
俺はなまえと戦いたい。
こんな気持ち、久しぶりだった。
あまり期待をかけてもあとが辛いと抑えようと思うけれど、どうしても。

「私は強くない」

なまえは言う。

「弱くもないけど、やっぱり私を過大評価しすぎなんですよ」
「ソニックもか?」
「ソニックはわかってますよ。私がどの程度できるのかも、どの程度できないのかも」
「ジェノスは?」
「そうですね、強さという観点だけなら貴方へのあこがれが強い分そこまでじゃないと思います」
「なあ」
「はい」
「なまえ」

俺は笑ってはいなかったと思う。

「俺の自己満足に付き合ってくれ」

なまえは、少し笑っていた。

「似たもの同士のよしみでさ」

なまえは何も答えずに、静かに俯いて考えていた。
俺は出された緑茶を啜って待つ。
なまえの家は広くて綺麗にしてある。
リビングから奥の書斎への扉は壊れている。
ソニックとジェノスがやりあったあとだった。
本が無事だしべつにいい、と笑っていた。
修理屋にしてはひどく人気のあるやつ。
料理がうまい。
手先が器用で、はじめは避けられたり気づかないふりをしていたり。
ひとつ思い出す度にひとつずつ胸が熱くなる。
なまえのことを大切にしたい。
好きだ。
ああ俺は、どんな顔をして、どんな瞳でいま。

「試してみますか」

その言葉は予想外だと思ったけれど、予想していたような気もした。

「……いいのか」
「ただし時間は1分間。ついでに私は武器を持たせてもらいます」
「なんでもいい」

俺はどんな顔をしていただろう。
なまえはやっぱり少し笑っていた。
屈託の無い楽しそうなとはいかなくて、苦しげに、ほんの少しだけ微笑んだ。

「やろうぜ」
「やりますか」

一瞬後には覚悟を決めたようでそう言った。
苦しめているのは俺で間違いない。
さっきの微笑みといい胸がずきりと痛むのだけれど、それ以上に、その、静かに挑むような目にぞくぞくしていて。
やっぱりどうしても、楽しみだった。




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2016/01/29:私の自己満足に付き合っていただいてありがとうございます。
 
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