38 vsキング6


とんでもないことになった。
否、正確にはさせられた、だ。

「キングがんばれー!」
「かたきをとってくれー!」

無責任な!
相手がゲームの中にいるなら、全員そこそこに戦えるはずだというのに。
けしかけたなまえ氏はと言えば、タッグの機能は画面分割でやりにくいから、別画面からこっそり乱入する、とのことで、なにやら会場一番隅のブロックで勝手にコントローラーを握っている。
サイタマ氏もジェノス氏も、なまえ氏と一緒にいたあの人も、なまえ氏の傍で画面を見ていた。なかなか薄情、いや、欲望に忠実だ。
隣にいたらどう、ということもないが、ものすごく不安だった。

「大丈夫です、絶対に」

にこりと笑うなまえ氏が強すぎて抵抗できなかった。
視線を感じたのか、ふと顔を上げて、こちらを見た。
笑った後に軽く手を振る。
かわいらしい所作ではあるのだが、そのあとの周りの3人の視線たるや合わせて街4つほど破壊しそうな威力があった。
この後に及んで容赦なく追い打ちがかけられる。

「さあ、こちらに」

あれよあれよという間に一番目立つモニターの前へ。
相手は未知のもので不安も恐怖もあるけれど、ゲームならば、こちらも負ける気は無い。

◆ ◆ ◆

「なまえさん、本当にそのゲームが好きなんですね」
「ん、うん? そうだね」

俺の声に、ワンテンポ遅れて答えてくれた。
どうやら、集中していたらしい。
たかだかゲーム、と思ったりしたけれど、うっかり羨ましくなる。
このくらい、熱心にこちらを見てくれたのなら。
許容熱量を越えて、コアが溶けだしてしまうかもしれない。

「さて」

先生もソニックもじっとなまえさんをみる。
機体の組み立ても終わって乱入の準備は整ったらしい。
乱入の派手なエフェクトが2回。
一つはなまえさんで、もう一つはあの謎の機体。
観衆はなぜ2度鳴ったか、少しだけ疑問に思ったようだが、敵は1人じゃないのかも、という誰かの言葉に勝手に納得していた。
確かに敵は1人ではない。
あの謎の機体にとっては敵は2人であった。

なまえさんは流れるようにブーストを吹かして、おもむろにスナイパーライフルを構える。
砂の多いステージだ。
隠れるところも少ない。
スコープで遠くが見えるけれど、敵はおろかキングの姿も確認出来なかった。

「そんなとこで当たんのか?」
「そうですね……、今、かな?」

派手な音がする。
敵に聞こえているかは謎だ。
ただ、なまえさんのテレビ画面にhitの文字が点滅した。
確かに、一瞬なにか横切った。
タイミングなど見えていなかったのに、あれにあてた?
そんなことが起こるのか?
俺と先生は驚いていたが、ソニックはこれが当然とばかりに表情一つ変えていなくて、焼却してやろうかと思った。

「なまえさん、今のでこちらに向かってくるのでは?」
「ないかな。キングさんを無視はできないよ。それに、向かってこられても大丈夫」
「何故ですか?」
「近距離武器積んでる」

いつもより、言葉が短いのは集中しているからなのだろうか。
しかし表情はこの上なく楽しそうだ。
ゲームが好きなのか。
それともこの状況を楽しんでいるのか。

「なまえさんは、あの機体と戦わなくてもいいんですか?」
「ん?」
「なまえさんは、」

もう一度同じことを言おうとした。
けれど、なまえさんはそこからはじっと黙って応えてくれることはなかった。
戦いたがっているように見えた。
強い相手に昂っているように見えた。
そうではないのだろうか。
おもむろに、スナイパーライフルを放り投げて動き出す。

「っ」

息を飲まずにはいられない。
ぴたり、と一定の距離を保って敵機の後ろにくっついている、急な旋回もものともしない、読んでいる、のだろうか。
俺では説明出来ないけれど、ただ、これは、俺にもソニックにも、サイタマ先生にだって真似できる戦い方ではない。
地獄のフブキもこういう人を傘下に入れることができたなら強そうなものだが。
画面のはしに、ちらり、とキングの機体が見えた。
敵機に突っ込むタイミングでなまえさんも前に出る。
キングと同時、とはいかない。
タイミングがずれた……?
なまえさんの方が少し遅い。

「うおおおおお!! 負けるなキングーー!」

声がひどく遠い。
なまえさんが近距離武器を振るう、当てにくくて使いにくい、けど威力だけなら抜群で、ほぼ全ての機体を一撃で沈められる。
そんな武器だとキングに聞いた。
勝負が決まりそうに見えたけれど。

「タイミングがはやい……!!」

ハッ、とソニックのバカにしたように笑ったが今は放っておく。
一瞬の出来事だった。
敵機は、キングから距離をとるべく後ろへ下がった。
一歩下がったそこには。

「よし」

一撃、とは行かなかったが、なまえさんが敵機の後ろから一撃を食らわせたことにより、キングが、もう一撃追い打ちをかけた。
その頃にはなまえさんはその場から離れていて、キングのゲーム画面のみを見ている奴らには、キングがひとりで倒したように見えていたに違いない。

「帰ろうか」
「フィギュアはいいのか?」
「どう見ても優勝はキングさんでしょ」

思えばあの時も不意打ちだった。
正面戦闘を、みたことがないのではなく、正面戦闘をしないのかもしれない。
彼女がこんなに楽しそうなのは、好きなゲームで好きな戦い方ができたから、かもしれなかった。
けれどもし、正面戦闘になったとしたのなら。
なまえさんとソニックは帰ってしまったけれど、俺と先生はしばらくじっと黙っていた。
これはゲームの話。
現実でも同じ動きができる訳では無い。
どうにかそう、言い聞かせて。


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2016/1/27:ギャグにならなかった(笑)
 
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