37 vsキング5


なんだか、なまえが落ち着かない様子だ。
なにか、面白いおもちゃでも見つけた。そんな顔をしている。

「おい……」
「ん?」
「何か起きたのか?」
「いや、えっと、何が起きたんだろうね。今人が消えてね」
「…………」
「まあ、そんなことはどっちでもいいんだけど」
「何も言ってないだろう」
「どこに行ったのかなあって」

えらく、含みのある言い方だ。
もしかしたら、どこへ行ったのか、こいつはある程度わかっているのかも知れなかった。
何を言うにも楽しそうだ。
自称、ではあるが、こいつは『平和主義者』であるらしい。
が、今のこいつのは顔は『平和主義者』とはほど遠い。
獲物を求める獣をのもの。
目がぎらついて、まるで忍者だ。
が、おそらく、そうじゃない。
同じ目ではあるが、それ、ではない。

「なまえ」
「ん?」
「何か起きたら、この大会は無効になるんじゃないのか」
「え?」
「騒ぎが起きたら、この大会は無効になるんじゃないのか」
「なんて?」
「お前が見たのが人間ではないとしたら、何かやらかすんじゃないのか」
「……」
「……」
「と」
「と?」
「等身大フィギュアが……!!!」

勝者だというのに、その場に膝から崩れ去る。
みっともないのですぐに腕を引き上げて立たせるが、先ほどまでの楽しそうな顔はどこへやら、今にも泣きそうな顔で言う。

「でも! その騒ぎを解決したら、もしかしたらお礼ってことでフィギュアくれるかも知れないよね!! ね!!!?」
「俺が知るか」
「そうなったらきっとソニックも協力してくれるよね!!!」
「必死だな」
「フィギュアが!!!!」

両肩を掴んでがくがくと揺らす手にはそれなりに力がある。
俺程ではない。
ゲームや家電いじりばかりしていて、里を出たときよりも大分貧弱になっている。
普通にやったら俺がこいつに負けることはない。
そんな要素はありもしないと俺もこいつも認めている。
が。
条件次第ではなまえという人間はとんでもなく強くなる。
その観察力のあまりあんな暗闇に閉じ込められていたのも納得だ。
なまえの力の底を見たくなかったなまえの親族の気持ちもわかる。
スピードもあまりない。
力もそこそこでいい。
はじめて、なまえが本気で戦うところを見た時、確かに、なまえがあのまま忍として育てられていたのなら、どんな性格になったのか想像もつかない。
俺が拾っていなかったら、どうなっていたのだろう。
考えるだけで恐ろしい。
そこいらの怪人など手も足も出ない。
S級ヒーローなどものともしない。
見ていればわかる。
本当に敵に回したくない理由が。

「っ、あ、ぎゃあああああああ!」

叫び声に、再びなまえの目の色が変わる。
フィギュアのことなど、やはりどうでもいいのではないか。
楽しそうに「行こう」と言うなまえと一緒に走ってやる。
既に人が集まっているそのモニターには、見た事の無いパーツの機体が映っている。
真っ白の機体。
普通に組めるものより一回り大きい。

「これだ……!」

なまえが小さく言う。
やはりある程度あたりはついていて、その予感が的中したらしい。
恐ろしい奴だ。

「な、なんだよ今の……!! おい、なんなんだよ!!?」

プレイヤーの男は見苦しくも見ていたスタッフにつかみ掛かる。
誰もが予想外の状況を、隣のこいつだけは楽しんでいた、否、楽しみにしていた、の方が正しいだろうか。

「お、落ち着いて下さい、今確認しますから……!!」

スタッフはどうにか解放されて、バックヤードの仲間の元へ駆けて行った。
一歩遅れて、サイタマやその取り巻きがひょっこりと顔を出す。
サイボーグは俺を睨んでくるが、取り合ってやる義理はない。

「なまえなんかした?」
「えっ」
「先生!!?」

こいつめ無警戒にあんな表情をするから、あらぬ疑惑をかけられたりする。
が、気付いていて放っておいたのだから、何もしていない、というのも罪ではあるかもしれない。
そんなこと、言わなければわからないことだ。
そういうことは、こいつは言わない。
おそらく、本当のことを言うのだろう。
何もしていませんよ、とかなんとか。

「何もしていませんよ」

何もしていない。
何が起きるかある程度わかってはいたが。
なまえは、あの機体と戦いたがっている。

「お前か?」

サイボーグの言葉は俺に向けられていた。

「悪いがそんなに暇ではない」
「いや、お前もゲーム練習して大会出てるんだから暇だろ」
「お前たちほどではない」

会場は不穏な雰囲気で、急遽ここで休憩が入ることになった。
なまえはじっと不気味な機体が現れていた画面を見ている。
サイタマは暇そうに座っている。
俺も壁にもたれかかって、会場全体をただ見ていた。
なまえは何かを考えている様子だ。
しかし、ふ、とぽん、と手を叩いて、一人でフィギュアの近くまで歩いて行った。
何をするのかと思えば、その近くに居たサイタマの連れ、キングとか言ったか。それに声をかけて、何やら話をしている。
よくわからないが、なまえが押している気がする。
キングの手首を掴んだとき、サイタマとサイボーグがあからさまに動揺したのが面白かった。
俺の眉間にも皺が寄っている気がしたが、そんなことはないという事にする。

「!」

バックヤードになまえとキングがずんずんと入って行ったかと思うと、すぐに二人は、スタッフと共に出て来た。
なまえは笑顔で、誰にもバレない様に観衆にまぎれ、キングは真っ青な顔をしている。
なまえは何やら満足気に俺の隣に戻って来た。
なりゆきを見守るなまえ。俺も観衆と同じようにがたがたと震えるヒーローに視線をやった。
ドッドッド、とおかしな音がする。
首を傾げるが、観衆は何故か湧いていた。

「みなさん!」

かちゃり、とヘッドフォンを装備した。

「キングがあの機体と戦ってくれますからご安心を!」

これは確かに、なまえにとっては、楽しい展開、だ。


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2016/1/25:サイタマさんとガチマッチさせたい。
 
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