36  vsキング4


忍者がこんなところで目立っていいのだろうか。
なまえとソニックの方からも歓声が聞こえて来て、ほんの少しだけそう思った。
そう言えば、なまえも一応忍者なんだっけ。
ソニックのような服があるのだろうか、それは少し見てみたいような。

「盛り上がってんなー」
「実際なまえ氏って強いの?」
「強いんじゃね? 何度か優勝したこともあるらしいぜ」
「ふーん。ほかのゲームもやるのかな」
「あー、どうなんだろうな、ジェノス」
「どうでしょうか……、家庭用ゲーム機も携帯ゲーム機もすべて見たような気がしますが」
「へえ、あとできいてみよ」
「いやいや、それはやめといた方がいいんじゃねえの? な、ジェノス」
「はい」
「え、でも」
「やめとけって、な?」
「……」

ぽん、と手を置くと、キングは顔を青くして、小さく「ハイ……」とだけ言った。
俺は少しだけど、ジェノスはきっと思い切り威嚇したのだろう。
そこまでしなくてもいいだろうに。

「先生、そこまでしなくても」
「俺かよ」
「(どっちもだよ)」

キングの肩を離してやると、キングははあ、とため息をついた。
もう完全に状況を把握した頃だろうか。
キングにしてみれば迷惑な話だろう。
拾ったチラシに書かれていた大会。
優勝商品は等身大フィギュア。
あれをとれば、売っても良い値がつきそうだし、家(にはおけないから、きっと外とか)において置いておいたなら、きっと、それを見になまえは俺の家の近くによく来るようになるかも知れなかった。
一緒に商品を狙ってプレゼントするというのも魅力的ではあったものの、キングにこのゲームについて聞いたら、何故か一緒に出場する流れになったのだった。
あの時に直接なまえのところに行っていれば、今なまえと一緒に戦っていたのは俺だったのかも。
様々な気持ちや妄想が交錯するが、それでも、ソニックと居るなまえというのは特別な気がした。

「ん……?」

ジェノスは、キングと喋っていて、というより、生体反応が多すぎて、だろうか? 気付いていない様だった。
俺はいつだか見た事がある。
人間が怪人になる瞬間を。

「おい、お前」

声をかけるが、ここからじゃ遠い。
その男は等身大のフィギュアの前で頭を抱えてぶつぶつと何かを言っていたと思ったが、やがてぴたりと静止して、にやりと大きく笑うと、だらん、と両手の力を抜いた。
こんなところで暴れられたら、けが人くらいは出てしまうかも。

「っ……!」

近くへ移動して手を伸ばす。
しかし、その手のひらが男を掴むことはなく。
すかっと空を切って、ついでに、視界からも消えてしまった。
もしかして、とんでもない怪人なのかも、と思うが、
視界から消えた、というのは、スピードが速くて見えなくて、とはどうやら違う。
きょろきょろと周りを見渡すが怪人の影も音もない。
誰かが襲われた様子もない。
本当に、その場から、消失した。

「ええ……」

はじめから、見間違いかなにかだったのだろうか。
参ったな。
ついに幽霊とか見ちまったのかな。
まさかな……。
俺は背中にそら寒いものを感じて、ぶるりと震えると、ようやくジェノスがこちらに寄って来た。
「どうかしましたか?」なんていつもの調子である。

「なあ、ジェノス。今お前のセンサーになんか、えーっと、なんつーか、異変? とか、そういうのあったか?」
「え、いえ、特になにも……、何かありましたか?」
「いやな、今、人が消えたんだよ」
「…………そうですか」
「信じてねえな」

いえそんなことは、と言いはするが、どこか心のない表情をしていた。
あの男に気付いたのは、俺だけだっただろうか。
随分と遠くに居るが、ちらり、となまえの方を見る。

「―」

思わず息を飲んだ。
その表情をよく知っている。
それは、今から起こることにわくわくして期待して楽しみで仕方が無いというような笑顔。
笑顔というほど無邪気なものではなくて、獲物を狩るような鋭くって綺麗で、ぞくぞくするような。
そんな顔。

「先生?」

そんな表情をジェノスには気付かせたくなくて、思わず、視線を反らして、ジェノスとなまえの間に入る。
なまえは本当に忍者なのか、と思ったりした。
戦えるのはジェノスに聞いて知っていたけど、実際戦っているところを見たわけではない。
けれど、あの顔を見たらわかる。
なまえも間違いなく、いくつか修羅場をくぐり抜けて来た、戦える人間だ。
もしかしたら、俺のこのどうしようもないやるせないむなしさをうめるのは、
そこまで考えて、俺もなまえと同じような顔をしてしまいそうで慌てて思考を止めた。
大体、なまえとそんな状況になったとして、俺が本気を出す理由はないし。
マジで殴ることなんて、いや、でも、もしかして。
頭を抱えだす俺に、ジェノスは首を傾げて、「頭痛ですか?」と暢気に言った。


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2016/1/24:遅刻してすいません。一日おきくらいにはあげられるようにがんばります。


 
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