35 vsキング3


あまり、男女で来るという場所ではないし、コスプレっぽい格好も浮いているのをわかっていた。
それでも大会の常連はと言えば変わらず声をかけたりかけられたり。ソニックが睨んでいるから、いつもより少しだけ少なかったように思う。
それはともかく、ゲームをしている時の私はまるで別人のようだなあ、と自分でも思う。
テンションや勢いに任せて、普段どうにもならないことが、どうにかなるような気がした。
そんな、ただただ楽しい時間。
しかたがないな、と、笑ってくれたらいい。

「サイタマとは決勝で当たるな」

ソニックはうまくのせてきただけあって楽しそうだ。
あまりちゃんとトーナメント表を見なかったけれど、サイタマさんとは別ブロックらしい。
正直、キングさんのゲームの腕は未知数で少し怖い。
負けるとも思わないが、相棒がスピード超重視の、超軽量機なだけあって、こちらが遠距離武器を構える戦略をとっている。たしかにカッコイイが、私もどちらかというとソニックのような機体を組むことが多い。
とはいえ万一に備えてこちらも、ブレードを積むなどして近距離戦も行える。
ソニックは流石に器用でゲームの上達も早かった。
そこまで心配はしていない。
チーム戦、となると難しそうではあったけれど、二対二ならば割合に得意だ。
それにしても。

「どうした」
「フィギュアかっこいいなと思って」
「動くやつがあるだろう……」
「公式で出るから価値があってね」
「そういうものか」
「……」
「下らん嘘で誤摩化すな」
「……あれ」
「なんだ?」

私が指さすのは、1人の観客の男。
等身大フィギュアを食い入るように見つめたかと思えば首を振って頭を抱える。
たしかに怪しい男ではある、が。

「あの人、今日は大会でないみたい」
「今日は?」
「いつも一回は勝負するんだけどね、今日は観戦みたい」
「お前と同じで友達がいないクチか」
「同じゲームする友達なら私も居なかったよ」
「で? あれがどうした?」
「なんだろう」

何かが見えるようで見えない。
影のような暗闇のような何かにとらわれているような。
彼は人間で、ゲームをしているときはただの青年だった。
まるで半分怪人のような、少し人間とは違う気配を感じる。
誰も、わからないのだろうか。
S級ヒーローレベルの人間が4人もいるが、そこまで気にした様子もない。

「お前、あんなのがタイプなのか」
「あ、そういう冗談初めて聞いた」
「俺には頭のおかしい男にしか見えんが」
「そう、だといいよねえ」

そんなことを話していると、ワァッと歓声が聞こえる。
歓声の中心にいるのはキングさんだった。
やっぱり上手いのだろうか。

「うーーーん」
「今度はなんだ」
「私、ロマン武器ガン積みのいつものスタイルでいってもいい? なにかあったときに一人でも戦えるように」
「お前、俺がその辺の奴に負けると思っているのか……」

ゆらり、とこちらに詰め寄るソニックに、首を振ってそうではないと伝える。

「勝つとか負けるとかじゃなくて、なんとなく」
「なんだそれは」
「うまく説明できないけど」
「説明しろ」
「いや、難しい」
「いつもの嫌な予感とやらか?」
「嫌な予感、とは違う気もするけど」
「ならば何故そんなに気にする」
「みんなにとっては、あまりいいことではない、かもしれない」
「なに?」
「ただ、私にとっては違うかも」
「何故そこまでわかって肝心なことがわからないんだ」
「あ、ほら、次だよ。行かないと」
「今日の晩飯はなんだ」
「チキン南蛮」
「みそ汁もつけろ」
「具は?」
「なす」
「ん」

試合がはじまるとすぐあとに、こちらでもワァッと声が上がる。
自分で組み立てたロボットを戦わせるが、ライフルやショットガン、ハンドガンなんかを装備するのは割とスタンダードな機体で、私や、今はソニックもそうか。
使いにくいがかなり強力な武器を活かすことだけを考えた機体。
はまれば一瞬で勝負がつく。
ソニックの画面も私の画面も機体が早いため見応えがあるのだろう。
けれど、人が集まりきるまでには終わっていた。
ソニックが派手に暴れるので、私は横からつついてやればいい。
良い連携、というよりは、当然のあり方と言えた。

「あの二人もすっげーな」
「キングもすごかったけど」
「間違いなく優勝候補だな!」
「にしても、なんであんな機体動かせんだよ……」

そんな声が聞こえる。
キングさんと戦うのは楽しみだった。
けれど、きっと起こる気がする。
みんなにとってはいいことではない。
けど、私にとってはとても楽しいことが起こる、そんな気がする。
私はなんだかわくわくしていて、はやくその時が来ないかと待った。


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2016/1/21:私が好きなのは逆関節。軽くても重くても。
 
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