33 vsキング


なまえが、おかしなことを言い出した。
手にはゲーム機とソフト。
いたく真面目な顔でなまえは言った。

「ゲームをやろう」

俺も真面目な顔で返す。

「やればいいだろう」

言葉に、なまえは今度はゲームをその辺において、A4のチラシを広げてみせた。
こいつが好きなロボットが書かれている。

「大会に出よう」

なまえは、拳をぐっと握って言った。
俺は適当に答える。

「でればいいだろう」
「一緒に!」
「……」
「だめ? 晩御飯に好きなもの作るから!」
「一応聞いてやる、どういう事情だ」
「私の好きなゲームの新作が出ました」
「ああ」
「タッグバトルモードが追加されました」
「そうか」
「大会があります」
「お前がいつも出ているあれだな」
「ひとりだと出られないんです」
「なまえ」

残念ながら、そんなものに出る気はない。
断ろうと名を呼ぶと、すかさず、なまえは言う。

「サイタマさんも出るって言ってたよ」
「なに」
「一緒に出てよーー」
「いいだろう」
「え?!」
「その大会とやらに出てやる」
「ほんとに?! やったーー!! そうと決まれば練習だ!」

別にちょろくなどない。
笑顔が嬉しいけれど、そんなことじゃない。
サイタマが相手となれば引き下がることはできない。
それだけだ。
俺はあいつらのように無理をしてなまえと遊んだりしなくてもいい。
なまえは「ヤッター」と言いながら外出の準備をはじめていた。
その行動はおかしい。

「まて。練習じゃないのか」
「ひとりでしかやらないと思っていたからコントローラーを買うところから始めないと」
「……」

そんなだから、小学生にも友達がいないことがバレるのだ。

「ソニックも行く?」
「ああ」

けれど、こいつが楽しそうだから、付き合ってやることにする。

◆ ◆ ◆

二人並んで街を歩く。
今日は。

「……」
「……」

珍しく、手を繋いでいない。
なにが気になるのかちらちらとこちらを見上げてくるので、俺もゆっくりそっちを見てやると、ばちりと目が合う。
いつもならなんてことないことだが、なまえは目をそらして気まずそうにしていた。

「……」

驚いた。
意識、されている?
思わず、ふっと笑ってしまう。
手を繋ぎたいのだろうか。
言ってしまえばいいのに。
そのまま、信じてしまえばいいのに。
お前が好きなのは俺だけなのだと信じ込んでしまえばいいのに。
そうしたら絶対に離さない。

「なまえ」
「ん?」
「すき焼きが食いたい」

言えたらいいのに。
愛していてお前だけで。
そばにいて欲しくて離れたくなくて。
溶けるくらいに甘やかしてやりたくて。
ほかの誰も見て欲しくない。
俺だけでいい。
そんな風に、全部投げ打って言えたら良いのに。

「ちょうど私も食べたいと思ってた」

へらりと笑うこいつを知っているのは俺だけじゃない。
いつもみたいに、なんてことない言葉で元に戻る。

「よーし、ソニックがゲームうまくなるようにちょっといいお肉を買おう!」
「どんな理屈だ」
「打倒、サイタマ組ー!」
「一番いい肉を買うぞ、なまえ!」
「おー!」

ならんで歩く姿はいつもより少し遠いが、好きなゲームの絡んだなまえはいつもよりも楽しそうだった。


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2016/1/19:ギャグ書くぞ。(たぶん)
 
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