32 日常の君



私は、一日に依頼を受ける件数を決めた。
多くても10。それ以上は後日にまわす運びとなった。
お客さんがくれたものは、本当に様々で、おおきなぬいぐるみから、お菓子や調理器具、タオルや洗剤などの日用品から様々であった。
サイタマさんはこれらを一体どうやってもって来たのだろう。
私もお返しにと人数分のお菓子を作って各家々を回った。
ついでに、日に仕事を受ける件数を減らすという話しをさせてもらったのだけれど、皆口を揃えて、「それなら仕事が終わったらゆっくりできるわね」と笑った。

「とは言えこんなことになるなんてなあ」
「電気屋さんのおねえちゃん、どうかした?」
「なあんにも。いい天気だね」
「もしかして……、おばさん……?」
「今時の小学生っていうのは厳しいんだなあ……」

私の前で楽しそうにする女の子は「おもしろーい」と笑った。
私も同じ様ににこりと笑う。
子守りなんてはじめた覚えは無い。
けれど確かに、仕事が減った分暇だった。
だからといって、家電屋と子供を遊ばせるだろうか。

「電気やさんのおねえちゃんって、これできる?」
「なに?」
「えーっと、ね、」
「うお、スマホ? かっこいいねえ」
「じょーしきだよ! あった、こーいうの」
「んー? あー、ダンス? ちょっと見せて」
「うん」
「んー……」
「できる? できない?」
「やってみようか? 曲もう一回かけて」
「うん!」

歌とかダンスとか、そういうものに憧れるのだろうか。

「はい。どう?」
「すごーーーい!!」
「いいねえ、そういう反応嫌いじゃないよ」
「他には!?」
「んー。今度ゲームの大会に出るよ」
「え。お姉ちゃんその歳でゲームなんてやるの?」
「ゲームやるよ」
「どんな?」
「ロボット」
「おにいちゃん?」
「おねえちゃんで合ってるよ」

フーン、と興味があるのかないのかわからないが、女の子はそう言うと、またスマートフォンの画面をこちらに見せてくれた。
私と同じくらいの女の人と、赤ちゃんの写真だった。

「あのね、いとこのお姉ちゃんが赤ちゃん生んだの」
「へえー、いとこのお姉ちゃん何歳?」
「えっとね。大学生!」
「ふえー。大したもんだなあ」
「電気屋さんのお姉ちゃんは?」
「ん?」
「赤ちゃんは?」
「んん?」

困っていると、女の子は花のように笑って言った。

「あ! そっか! まずはこいびとからだよね! こいびとは?」
「んんん?」
「じゃあ、好きな人は?」
「んんんん、君は?」
「私? 私はねー、近所のあっくんと、ゆうくんと、みっちーと、無免ライダーと―」
「おー、たくさんだね」
「お姉ちゃんは?」
「お姉ちゃんねえ」
「は! もしかしてお姉ちゃん、女の子が好きなの!!?」
「いっそ怖いな今時の女子小学生」
「誰にも言わないよ!」
「うーーーん、どんな人がいいと思う?」
「え! そうだなあ、電気屋のおねえちゃんはぼーっとしてるから、ひっぱってくれるひととかいいんじゃないかな!」
「お、思ったより具体的なんだね」
「しっかりしてるでしょ!!」
「うん。すっごいね」
「えへへ」

頭を撫でてあげると嬉しそうに笑った。
子供らしくてかわいらしい。
私にもこんな時期があっただろうか?

「で、好きな人は?」
「いたらよかったけどねえ」
「いないの?」
「どうかな」
「当ててあげる! いつも一緒の黒い髪の人!」
「ひい! なになに!? どこで見たの!!!?」
「だって、電気屋さんのお姉ちゃん目立つから」
「……その人は、ずっと助けてくれる人」
「違うの? じゃあ、かっこいい金髪の人!」
「……その人は、なんだか放っておけない子」
「むー! ならあ、へんなかっこうのハゲ!」
「……その人は、安心して近くに居られる人」
「みんなすきってこと?」
「好きか嫌いかで言えば、そう、なるのかなあ。恋って難しいんだなあ」
「電気屋さんのお姉ちゃんって、不器用なんだね」
「そうなのかなあ」
「あと、オトモダチいないんだね」
「え……」
「小学生の私に相談するなんて……、電気屋さんのおねえちゃんのおともだちになってあげるからね……」

なんてこと言うんだ。
思ったけれど、実際その通り過ぎてなにも言い返す事はできなかった。

「電気屋さんのおねえちゃん名前は?」
「なまえ」
「なまえお姉ちゃん。ダンス教えて?」
「君自由だなあ……」

明日には彼女の友達が一人増え二人増え、小学生女子の中に混ざるおかしな社会人になってしまった。
通報されないことを祈る。



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2016/1/18:ほのぼの子供にいやされる。
 
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