29 病むに病まれぬ7


「日頃の疲れも一緒に来てますね」

それが、医者の言葉だった。
私はああ、と納得するけれど、後ろの3人がどういう表情をしていたかどうかはわからない。
点滴しようか、という言葉に、私はお願いします、と言って、その間だけは流石に三人とも静かにしていて、私は少しだけ眠った。
起きるとそこは、病室のベッドの感触とは少し違っていて、どうやら家のベッドらしい。
大分楽だけれど、眠っていたせいで少し気怠い。

「なまえ」

起き上がろうとすると、声がかかる。
気配がなかったのか、私が気を抜きすぎていたのか。
おそらくその両方だろう。

「ソニック、だけ?」
「ああ。今日のところは、だがな」

忌々しげに言うソニックに、なにか三人の間で取り決めがあったのだろうかと推測する。

「明日は?」
「サイタマだ」
「うん、解決策としてはこの上なく妥当だと思う」

どうやら、日ごとに違う人が看病に来てくれることになったらしい。
ソニックの手の平が額に触れる。
私の体温よりも少し冷たい。

「まだ少し熱いな。調子はどうだ」
「大丈夫。今、何時?」
「三時を過ぎたところだ。何か食べるか」
「ううん」

眠っていた方が良いと思う。
最近忙しくしていて、睡眠時間を削っていたし、昨日も全然寝ていない。
手をふわり、と彷徨わせると、ソニックがそれを掴んでくれる。

「……」
「抱いてやろうか」
「……へ?」
「抱きしめてやろうか」
「(聞き間違いか)あ、え、あの」

絡む指先が、ひどく熱い。

「確かに真っ暗だけど、あの時とは違うから、だいじょう、ぶ」
「そうか」
「あの」

すう、と肩を押されてベッドに沈む。
覆いかぶさるソニックは、何やらいつもとは違う気がした。

「見えていないのか」
「ごめんね、詳しい理由を話そうか」
「もう聞いた」
「そうなの」
「ああ」
「ごめん」
「何故謝る」
「なんとなく」

抱きしめてほしかったのは、ソニックの方なのかもしれない。
私もそっと手を回して背中を叩く。

「あいつを、庇ったそうだな」
「庇いきれなくて、この様だけれど」
「そうじゃないだろう」
「え」
「……」
「……ソニック?」

彼が力なく「なんでもない」というのは珍しかった。
けれど言われてみれば確かに、私が誰かを身を挺して庇うというのも、相当珍しい話しである。
ソニックは私に対して、三人の中ではかなり余裕があるのかと見ていたけれど、今はなんだか焦っているような。
彼の中で今回の私の行動は相当堪えるものだったようだ。
確かに、今となっては大事か大事じゃないかと言われれば、大切な部類に入ってしまう。
人間に興味を抱くことが、なかったんだと気付く。
ソニックだけだった。
ソニックもそれをわかって、このぬるま湯のような関係を続けて来たのだろうし、今までは焦る必要などなくて、きっと、そう、例えば、例えばだけれど。
私がサイタマさんやジェノスくんの想いを聞く前に、彼が決定的なことを言っていたとしたのなら、私は特に深く考えることもなく、首を縦に振っただろう。
今でも、そうかもしれない。
そちらに逃げるかもしれない。
だから、ソニックは言わないのだろう。

「なまえ」
「ん?」
「寒くはないか」
「うん」
「夕飯は食うだろう?」
「うん」
「風呂はどうする?」
「シャワーだけ浴びるよ」
「わかった」

体が離れるけれど、少しだけ温かさが残っている。
掛け布団を直して、ソニックは私の頭を撫でた。

「―」

何かを言いかけてやめた、そんな気配。

「―、ちゃんと寝ておけ」

部屋から出て行ったソニックの足音がいつもよりも荒い。
冗談じゃない。そんな言葉がどこからか聞こえた気がした。


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2016/1/17:冗談じゃない。これ以上近づく事も離れることもできない。戦略の幅が一番ない人。
 
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