27 病むに病まれぬ5


「ごめんなさい。もう寝るだけだから、大丈夫です……。多分、まだ人が居た時に使われてた布団が倉庫になってる部屋に入ってるはずだから、申し訳ないけど、それとか使ってもらって、今日はサイタマさんの部屋もひどい状況だろうから、泊まって行ってもらっていいので……。一人にしてもらってもいいですか……?」

渾身のお願いだった。
しばらく考えたあとに三人ともとぼとぼと私を寝室に残して、下でまたどたばたやった後に、しばらくしてから静かになった。
眠ったのだろうか。
玄関が開く音はしなかった。
帰った、わけではなさそうだ。
こうなると、時計の針の音がよく聞こえる。

「お前はここから出てくるな」

目を閉じると、最後に聞いた両親の言葉がよみがえる。
最近思い出さなかったけれど、これだけ暗い中に居ると、嫌でも思い出す。
気分の悪くなるようなその言葉は、私の目を嫌悪するあまり出た言葉だった。
はじめは普通だったはず、普通とは言っても一般家庭とは違うけれど、それでも、両親は両親だったはず。
それが、私を小さくて頑丈な小屋に押し込めたのは、いつのことだっただろうか。
窓もなく、遊び道具も明かりもない、そんな部屋でずっと過ごした。
父も母も、兄弟もだっただろうか。
確かみんな武器の扱いが上手く、私にそれらを教えようと見せてくれた、その一瞬後。
私が刀一本で長男をぼこぼこに負かせた。

「なまえ、その技……! なんで……!!?」

使った技は、いつだか見せてもらった、当時里で最強と呼ばれた忍の技。

「?」

私はよくわかっていなかった。
事の重大さ。
成したことの異常さ。
サイタマさんなんかを見れば大した事はないけれど。
それに、私だって見ただけで全部が全部を再現できるわけではない。

「お前はこれ以上鍛錬をするな」

とんでもないことになった。
どうしたらいいんだろう。
そんな風に落ち込んだものだけれど、そのうちどうでもよくなって、私にはなにもなかった。
ただ暗闇と、少し見ただけの忍の技と、微かな外の音しかない。
生きている、らしい。
そんな認識で生きていた。
誰に会うこともない。
家族の顔も名前も忘れた頃。

「?」

いつもとは違う音がしたのを覚えている。
床がばきばきと音を立てて、そこから炎の灯りがゆらゆらと入って来た。

「……本当に人が居たとはな」
「……」
「ふんっ、喜べ! お前をこのソニックのこぶんにしてやる!!」
「……」
「……」
「……」
「何か言え」
「……ソニック?」
「なんだ?」
「……私、は、なまえ」
「そうか。なまえ、それなら早速鍛錬だ!」
「え」
「なんだ?」
「でも、私」
「? 嫌なのか?」
「ううん」
「なら、行くぞ」

その時から手を引いてくれるのは、ソニックだったけれど。
いつからか、選ぶことを覚えて、忍として仕事をするときは絶対ソニックと一緒だったのが、単独でも仕事ができるようになって、ある程度稼いだら目標だった家電修理屋になって。
ソニックとは違う拠点を構えて。
なつかしい。
それが今、恋について考えている。
遅いくらいだとわかっているけれど、小さかった私は考えもしなかった。
こんな風に生きることなど。

「なまえ」

そう、名前を呼んでくれる声はいくつもあって。
きっと、助けてくれる人もたくさんいる。
頬を一筋の涙が伝う。
このまま眠って、そうしてあの頃のような暗闇で生きることになっても。
きっと大丈夫。
明日もきっと騒々しいのだろう、だから、見えなくても元気にがんばらなくては。

「!」

どおん―。

「……まあ、そう、だよねえ」

悲しいまでに予想通りだ。
さらに私の予想を言えば、これを仕掛けたのはきっとソニックだろう。
寝込みならばサイタマさんに勝てるかもという衝動を押さえられなかったと見る。
仕方が無いので、むくりと上体を起こして、下へ向かう。
ホテルでもとってあげたらよかったのかなあ、と後悔するが、時刻はもう12時を回っているのだった。


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2016/1/16:三人そろえたらそりゃあこうなる
 
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