01 君は友達


時刻が、昼の2時を過ぎた頃。

「なまえ」
「ん?」
「腹が減った」
「んー」
「おい」
「刀なら貸さないよ」
「ちがう」

ごす、と無遠慮に頭に振り下ろされた拳。
私はしかたがないので作業の手を止めて、その幼馴染みに向き直る。
全体的に黒い格好をした、刀を背負った男が立っている。
彼の名は音速のソニックと言って、いや、私はあまりこの名前について言及する気はない。呼びやすくて私は割合に好きだ。ということにしておいてくれるとありがたい。
どうやらおなかがすいてあまり機嫌がよろしくないソニックは私の服をひっぱって立たそうとする。
そんなことをされても残念ながら仕事中である。
飲食店ではないのだから、そんなに都合の良い時にご飯を作ってやることはできない。

「……冷蔵庫に、なにもない?」
「……なくはない」
「それ食べてていいよ、私の方はまだかかるし、そんなにおなか空いているなら食べないと。ただでさえ細いんだから」
「……」
「なんなら出前とってもいいし」

このあたりで私は作業にもどって、機械いじりをはじめる。
私はこうして家電やパソコンなどをいじって生計をたてている、所謂街の家電屋さんというやつで、各家々に赴いて出張修理をしたりもする。
Z市にある店に直接持って来てくれる人も居る。
あまり急ぎ、というわけでもないが、なんとなくこのテレビと、あと田中さんの家のパソコンの不調を探って、それから―。

「い、いたいよ、そう何度も叩いたら」

ごす、と何故か再び殴られた。
先ほどより強い力の打撃に、2発目が来る前に振り返る。
ソニックは相変わらず不機嫌そうな顔をしている。

「ふん、そうだろうな」

くい、と顎で示した先からは食べ物の良いにおいがする。

「……」
「この俺が温めておいてやったんだ、食うぞ。―どうせその仕事全部急ぎのものというわけではないのだろう」

その通りであった。
それが見抜かれているのは大した問題ではないとしても、少し視線をそらして奥のリビングを見れば、確かに湯気のたっている料理が並んでいた。二人分にしては少し多い。
ここまでされたら食べないわけにはいかなかった。
私が、降参、と一つ息を吐くと、ソニックは満足そうにふふんと笑った。
暇なことを。
この幼馴染み時折こういうよくわからないことをする。
けれど、こうでもされなければ面倒だから昼ご飯を抜いていたかも知れない、というのも事実。

「行くぞ。この! 俺が! 温めてやったんだからな」
「うん、うん。わかったよ、ありがとう」
「わかればいい」

実際作ったのは私だが。
私は作業を一時中断し、テーブルに座って手を合わせる。

「「いただきます」」

声はどうしてかぴったりと揃った。
いつものことなので気にもならないが、付き合いの長さを感じずにはいられない。

「最近はいつも仕事をしているが、そんなに稼ぐ必要があるのか?」
「いや、最近は営業とかもしていないし……。たまたま重なっちゃってるだけだよ」
「―本当だろうな」
「ほんとほんと。私の心配はいいから自分のことを心配してよ。ソニックの方がずっと危ない仕事なんだから」
「何を言っている」
「ん?」

ソニックはひどく不思議そうな顔をして言った。

「俺の心配はお前がするだろう」

何を言っている、はこちらの台詞である。
私が返す言葉に困っていると、そんな私をちらりと盗み見て、手が止まっている私から手作りミートボールを奪って行った。
ソニックは言う。

「もうないのか」
「……ない。明後日くらいに肉の特売日だったはずだから。明後日以降にまた作っとくよ」
「そうか」

結局返す言葉は見つからず。
私の『明後日以降にまたミートボール作っておくから』という言葉に気を良くしたソニックの口元は嬉しそうに緩んでいた。
そんな様子を見ていると、先ほどの言葉の返事など必要ではない気がしてきて、考えるのをやめた。
確かに、心配しているには違いないのだ。

「あ、その炒めものも自信作なんだけど」
「これは普通だ」
「な、なんだって」
「おかわり」
「え、ごはんまだあった?」
「炊いておいてやったぞ、5合」
「あ、あした炊き込みご飯にしようと思ったのに……」
「なんだと」
「おにぎり持ってくよね? 具、どうしようか?」
「……」
「まあこの野菜炒めでいいか」
「なにっ!?」
「ははは」

この時間がなくなったら、間違いなく、すごく、寂しい。


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2016/1/4:ソニックが有利め、なのかなあ。
 
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