25 病むに病まれぬ3



「人間の医学じゃ、治し方はわかりませんね。呪いやまじないの類いならばここではなく別の場所で見てもらったほうがいいのでは」

そうだろうなあ。
私はそのお医者さんの声をぼんやりと聞いていた。
サイタマさんやジェノスくんは抗議してくれたようだが、私はただ、ありがとうございます。と言って診察室をふらふらと後にした。
「もしかしたら治らないかも」そんな言葉も聞こえた気がした。
出て行った私の横に、すぐに二人が来てくれる。

「なまえさん! 違う病院へ行きましょう」
「そこまでしなくてもそのうち治るよ」
「そんなことわかんねえだろ」
「そんな気がするから、大丈夫ですよ」

笑ってみせる。
二人はどんな表情をしているだろうか。

「ジェノス」
「はい、先生」

声のあとに、二人に両腕を掴まれた。
たぶん、左がジェノスくんで、右がサイタマさんだ。

「とにかく、俺んち来いよ。何も見えないと大変だろ」
「なまえさん。何か食べたいものはありますか? なんでも作りますよ」
「え、大丈夫、だよ。家に帰してくれたらどこになにがあるかはわかるし」
「なまえさん」
「はい……」
「あれは俺が油断したせいなんです。できることはすべてやらせて下さい」
「いや、そんな、あれは私がうまく動けなかっただけで」
「俺も仕留め損ねたわけだしな」
「でも」
「いいから、な」

言うまでもなく、既に彼らの家へと引きずられているわけだけれど。
左側に入っている力が少し強くていたいが、何も言わなかった。

「あ」
「ん? どうかしたか?」
「ちょっとすいません」

サイタマさんに右手を解放してもらって、携帯電話を開く。
ジェノスくんに方にそれを見せて、内容を教えてもらう。

「不在着信ある?」
「はい、32件、と」
「わあ……」
「すげえな。全部なまえのお客さんってことか?」
「いや、多分何度かかけてくれてる人もいるから……」

電話しなくては。
ある程度電話帳の場所は把握している、右手で操作して、画面に出ている名前と私が思い浮かんでいる人の名前が一致しているか見てもらう。
電話をすると、全員に、何が起きたのかと聞かれて、怪人に。とそれだけ言ったところで、大丈夫なの!!? と心配されてしまった。
早く治したい、が、今のところは家でおとなしくしていることしかできなさそうだ。
家、と言ってもこのままではサイタマさんの家だが。
とにかくそんなわけでひとまずしばらく店は休んでいようと思う。

「人気者なんだな」
「そうかもしれません」
「そうだろ。なあジェノス。……ジェノス?」

ジェノスくんは黙って、じっと私の左腕を掴んでいる。
サイタマさんが呼んでも返事はなく、ただ、ぎり、と私の手首を握る力が強くなった。
流石に痛い。

「ジェノスくん」
「え、は、はい!」
「いたいよ」

笑えていただろうか。
私が言うと、ジェノスくんははっとして、謝りながら手を離した。
まだじんじんと手首が痛んでいる。

「すみません! 考え事に夢中で……!!」

長袖だから、痕がついているかどうかはわからないだろう。
わからなくてよかった。

「ううん。私なら、大丈夫だよ」
「しかし、もし、ずっと見えないままだったら……」
「見えなくてもなにかできる仕事考えないとね」
「なまえさん」
「ん?」
「そうなったら、俺が」

私は薄ら笑っていたと思うけれど、そこから先に言葉は続かなかった。
冗談みたいな話になってしまう。
彼はどうやら責任を感じているようで、私もどうにも中途半端なことをしてしまったと少し後悔している。
誰かをかばう、なんて。
少し前なら、目の前で死なれても何の感慨もなかっただろう相手を。
不思議なこともあるものだ。

「すいません、なまえさん。俺が絶対に、なんとしても、治す方法を見つけます」

ジェノスくんの言葉は表情が見えなくても真っすぐで真摯だった。
それにしても。
空を見上げても、下を見ても。
同じく黒。

「ありがとう」

何もみえない。
まるで、あの暗闇のようだった。


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2016/1/16:こういう話。
 
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