24 病むに病まれる2
「今日はどこへ行くんですか?」
「Z市内。ぐるぐる回る感じになるのかな」
「へー、そうなってくるとみんながご近所さんみたいで楽しそうだな」
「そうですね。楽しいですよ」
私を左右で挟んで歩く。人がいないからこそできることだ。
それにしても、こんな状況。人というのは慣れるもので、いつかみたいに震えて困ることもなかった。
完全に全部楽しむ、というわけにはいかないけれど、それでも、ここにも私の場所がある。
いつでも、居場所は作ってきていたと思ったけれど、本当は作ってもらっていたのかもしれない。あの時はソニックにあの時はお客さんたちに、今はこの二人に。
私はその居場所、を。
「「!」」
ばっ、と顔を上げたのは、私とジェノスくん。
何かくる。
「え? なに?」
サイタマさんは気付いていないようだが。
私はただ直感として。ジェノスくんはセンサーで捉えているらしい。
このあたりは他に人間はいないはずなので、ただその動きだけを感知しておけば良い。
「こんなところに人間が三人も居るとはなあ!」
建物の影から飛び出して来た、そいつが向かう先は真っすぐに私。
怪人。
うん。ソニックの気配ではなかったし、わかっていた。
やたらと角張ったその怪人は何故か眼鏡のようなものをいくつもかけていた。
何か、視界にまつわる怪人なのだろうか。
少し構えるが、私の前にジェノスくんが飛び出して、そして、その更に前にはサイタマさんが拳を握りしめていた。
「は?」
そこからは一瞬。
腹に大穴が開いた怪人は断末魔を上げる暇もなく倒れた。
「……なまえ、無事か?」
真剣な顔をされても。
「流石です、先生」
血など一切飛んでこなくて、それはよかった。
それはよかったが。
ジェノスくんが警戒を解いて、サイタマさんに近づく。
サイタマさんがわかりやすく格好つけている。
腹に風穴を開けられている怪人。
「……?」
動かない。
なんだろう。
嫌な予感がする。
「では、行きましょうか。……なまえさん?」
「どうした?」
怪人から目を離してはいけない。
そんな気がしたけれど、サイタマさんに肩を掴まれて、はじけるようにそちらを見てしまった。
「なまえ?」
サイタマさんの少し後ろで待機する。
ジェノスくんのさらに後ろ。
腹に大穴の開いた眼鏡の怪人が。
私はほとんど反射で地面を蹴って、ジェノスくんと怪人の間に入る。
打撃ならばどうにかなったものを、投げつけられたのは何か白い粉のようなもの。
「なまえさん!!?」
「なまえ!!」
っ、と小さく息を飲む。
粉が目に入ったらしい。
目が痛い。
「ははははは! 恐れ入ったか、にんげ」
「うるさい」
今度こそサイタマさんが怪人の頭を潰して動かなくなる。
胸の中で燻っていた嫌な予感が次第に小さくなっていく。
「大丈夫か?!」
サイタマさんの声がする。
粉程度でダメージを受けていないで早く目を開けなければ。
「何故、何故俺をかばったりなんか……!」
大したことないって笑わなければ。
ジェノスくんはどこに居る?
「大したことないよ」
声のする方を向いて言う。
目は開けているはずだ。
真っすぐジェノスくんの方を見れているはずだ。
少し首を動かした先にはサイタマさんがいるはずだ。
「大丈夫」
黒。
「なまえ」
「そ、そんなに心配しなくても大丈夫ですよサイタマさん」
黒い闇が広がっている。
どうしたらいい。
こんなとき。
「なまえ!」
強い語気にびくりと震える。
「もうそこに俺はいねえよ」
厄介な怪人もいたものだ。
サイタマさんの姿もジェノスくんの姿も、ちっとも確認できなかった。
目が、見えない。
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2016/1/16 : 視力を奪われる話書く。