23 病むに病まれぬ


「こんにちは。修理屋のなまえです」

どたどたどた、ばったん。
ノックと一緒に声をかけると、部屋を駆け回る音がして、それから決して広いとは言えない玄関で、二人して私を迎えてくれた。
はじめから結構歓迎されていたし、常連さんはいつも歓迎してくれるけれど。
こういうのは、相変わらず、どうしたものかなあと思ってしまう。

「よー、なまえ」
「なまえさん! こんにちは」

今日は、誰かに借りたというゲームを壊してしまって困っているらしい。
S級ヒーローのキングさんだったか、会ったら名刺を渡しておこうと思っている。
フブキさんからは一度連絡があったけれど、次は車の改造をしてほしいと言われてなんだかヒーローの知り合いも増えたものだ。
姉のタツマキさんにも会った。
ソニックは相変わらず鍛錬したり私とだらだらしたりしている。
いつものようにぱぱっと修理してしまうと、ジェノスくんがお茶を淹れてくる。

「なんなら泊まっていって下さっても」
「君そんなことばっかり言ってるね」
「と、泊まりとかおいジェノス、それなら俺らがなまえの家行くほうがいいだろ?」
「それもそうですね」
「なんてぶれない人たちだろ……」

私も大概ぶれない方だと思っていたけれど、そういうわけでもなかったかもしれない。

「それに、不用意に私の家に来ると面倒なのは貴方達ですよ」

言葉にサイタマさんは首をかしげるが、ジェノスくんは少し不機嫌そうに眉根を寄せている。

「え?」
「ああ、音速のソニック(笑)のことですか?」
「あー、あいつか。まあそんな大したことじゃねえよ」

大したことではない、か。
サイタマさんにとってはそうなのだろう。
けれど、実際とんでもないスピードではあるし、彼ががんばっている姿は私が一番よく見ている。とてもじゃあないがそんな風には思えなかった。
相手が悪い、そんな言葉しか出てこないような、状況。
困ったものだ。

「家を壊されたりしたら私が困るんです」

それこそ、ここに世話になることになりかねない話だった。
ジェノスくんは、忌々しそうに言う。

「あの忍者(笑)は、よく来るんですか?」

ああも絡んでは仕方が無いこともわかる。
私は否定も肯定もせずに、ただ質問に答える。

「来たり呼んだり呼ばれたり……、いろいろかな」

私の表情か。
それとも声音か。
二人はじっと深刻そうに黙ってしまう。

「相当仲いいよな……」
「……」
「いやそんなに深刻になられても……」

暗く重くなる空気に、どうしていいかわからなくなる。
私まで眉を八の字にして困る他ない。
ひとしきりそうして暗い雰囲気に沈んでいると、ふとサイタマさんが沈黙を破る。

「幼馴染み、なんだっけ」
「はい」

返事に、急にジェノスくんが元気になった。

「つまりは兄弟のように思っている、と……!!」
「あー……、どう、なんだろうね。兄弟というよりかは本当に体の一部って感じだと、思ってた、けど……」
「……」
「でも、一番の理解者であることは違いない、かな」
「ふーん。なんかいいな、そういうのも」
「うん。有難いものですよ」

サイタマさんはあまり表情に変化がないけれど、ジェノスくんはわかりやすく少ししゅんとした後に言う。ジェノスくんも表情に変化がないほうだと思うけれど、彼の考えていることはわかりやすい。

「煩わしくなったらいつでも言ってくださいね」
「ならないから大丈夫」
「くっ……! そうですか……!!」

そんなにか。

「ともかく、そろそろ次の場所向かいますね」
「随分儲かってるなー」
「おかげさまで」
「次の場所まで送っていきますよ!!」
「お、そりゃいいな」
「……」

何を言っても、ダメな流れかな。

「行きましょう! 遅れてしまいますよ」
「社会人の遅刻は恥ずかしいぞ」

私よりも早く玄関で手招きをする二人。
一人よりは、楽しい、かも知れない。


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2016/1/15:ちょっと長い話書く
 
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