22 町で


今日の天気はひどく荒れていた。
空自体は快晴だけれど、小石が飛んでいたり温度が急に上がったり。
そんな喧騒を、私は遠くで眺めていて。
こういう場合、誰に勝って欲しいとかっていうのはなくて、やっぱり他人ではなくなってしまった全員が生きていてくれたのなら嬉しいと思うばかりだ。
ただ、それに関わろうとは思えなかった。
上には上がいて、下には下がいるのだからそれで十分。
誰かを倒したいというのもなければ、戦えなければいけないという気持ちもなかった。
この手の中のものを守れたらいい、そう思う心は変わらない。
少し範囲が広くなっているような気がした。

「それにしても、とんでもないな……」

サイタマさんのマジな動きをはじめてみた。
およそ人間とは思えない動きだけれど、反復横飛び、か?
あんなのに真正面から挑んで勝とうなんて、ひとりでとんでもないものと戦っていたんだなと思い知る。
その心意気は大したものだ。

「死んだか…」
「いや殺してはねーよ!」

ここまで来ると声が聞こえる。
私はひょっこりと物陰から顔を出して、ゆっくりと近づいた。
はじめにこちらに気付いたのはヒーローの、フブキさん。
ジェノスくんのレーダーに引っかからなかったのは、私のヘッドフォンの密かな機能。
サイボーグ相手にこんなに役に立つとは思わなかったが、ただかっこよくて付けたステルス機能である。

「なまえさん……?」
「え、なまえ??」

誰? と言ったのはフブキさん。
あまり家電とかに興味はなさそうだが。一応。

「通りすがりの家電修理屋です」

そう言って笑うと、名刺を一枚渡しておいた。
そんなことより、ソニックを回収して帰らなければ。
私も結構鍛錬に付き合ったりしたのだけれど、まさに足下にも及ばない、という様子だった。
サイタマさんはまだいいが、ジェノスくんと戦っている時に、いつ止めに入ろうかはらはらとしながら見ていた。けれどサイタマさんがどうにかしてくれて何よりだ。
ソニックをどうにか運ぼうと思うけれど、なかなか重くて、どうにか背負うけれど、ふらり、と足下が覚束ない。
そんな時、足下に転がっている髪の束を見つける。

「……せっかく綺麗な髪だったのに」
「え」

触らせてもらうのは楽しかったのだけれど。
元気になったら少し整えてあげなくてはいけないかも知れない。
なんだか、視界の端に、わなわなと震える二人が見える。
サイタマさんはほどなく膝をついて言った。

「やっぱり、髪か……」
「しっかりしてください、先生! まさかなまえさんが長髪のほうが好みだったなんて……」
「いや、そういう話しじゃなくて」

ソニックがずるり、と背から落ちそうになるので、慌てて抱え直す。
この上こぶとか作ったりしたら怒られるどころじゃあ済まされないだろう。

「なまえさん、そんな奴は放っておけば良いのでは?」
「そういうわけにはね」
「俺が運ぶか? ハゲだけど」
「そんな自暴自棄にならないで下さい。大丈夫ですよ、この上介抱までされたのではまた荒れます」
「なまえさん! それなら俺が! なまえさんごと抱きかかえて帰りますよ」
「いや、もうそろそろ来るから」
「来るって?」
「(また話しに入れないわ……)」

もうすぐそこまで来ているはずだが、ジェノスくんも首を傾げる。
それは、センサーにはひっかからない。
このヘッドフォンよりよほど高性能なものを積んである。
程なく、風を切って飛んで来たのは、あのロボット。
黒いボディに、深い海のような青いラインの入った機体。

「おおー!?」
「これは……」
「な、なに? 今度は何なの?」

私は、手を差し出したそれの上にソニックをのせると、自分はその背からロボットに乗り込んだ。

「ではまあ、お騒がせしましたってことで」

軽く手を振ってすぐに、飛び上がった。

「また遊びにこいよー」

モニターには後ろで手をふるサイタマさん。
未だ目を丸くしている、フブキさんとジェノスくん。
久しぶりのこの席、動いているこの機体に胸が高鳴っているはずだ。
ソニックのことを心配している気持ちもあるけれど、このこを操作できて嬉しいはず。
今日は特に困ることもなかった。
さらりと帰してくれたし、ソニックも生きている。
ただ。
ああ、なんだか久しぶりだ。

「嫌な予感、するなあ」

遂に三人が一同に会してしまった。
これから、もっともっと忙しくなる。
ただでさえ、本業のほうが忙しいのになあ。


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2016/1/14:べつに短かったら短かったでおいしいですことよ
 
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