19 大切で大切で大切な


家に戻ると、程なくかつてうどんだったものを吐き出した。
なんだこれは。
確かに突然はち会わせたのにはびっくりしたけれど。
ここまでになるなんて、私って結構弱かったのかもしれない。
自分ではそれなりに、強いつもりでいたのに。

「しっかりしろ」

ソニックの言葉に、どうにか謝ろうとトイレで項垂れていた顔を上げるが、ソニックは私の後頭部を掴んで無理矢理に口づけると、水と薬をこれまた無理矢理口に流し込んだ。

「明日の仕事はどうする?」
「いや、そんなに。寝たら治ると思う」
「風呂は」
「きつい。朝にまとめてやる」
「そうか」

口元を綺麗に拭いてくれたと思ったら、二階にあるベッドまで運んでくれた。
広いベッドで、ソニックも同じ様に横になる。

「サイタマと知り合いだったのか」
「ん、うん、お客さんっていうか、ご近所さんかな」
「そうか。お前が最近悩んでいるのはあいつのことか」
「―そうだよ」

それからたぶん、貴方のこと。
あの時、うどんを食べに行く前に泣いたのは、痛い程に、この人も私を愛してくれているのだと感じたから、だ。

「ソニック」
「なんだ」
「ソニック……」
「……」
「怒ってる?」
「呆れている」
「うん、私も」
「どうするのか決めかねているのか?」
「ううん。今回のことも、わかってる、ちょっと、狼狽えすぎだったって。次からはここまでにはならないから」
「なにを怖がっていた」
「サイタマさん、には、まあ、助けられるまでもなかったんだけど。一度助けられたことがあって。その時にロボットをあげたら、まだ、大切に持っていて」
「ああ」
「もう一人は、ひどく真っすぐで、どうにも避けられないっていうか。でも、私にはなにがなんだかわからなくて、試しにとか遊びでとかそんな軽さじゃなくて。それに、そんな遊びしだしたら、ソニックとも距離おかないといけないとか考えたら。言えないし」
「……」
「考えても仕方ないってわかってるんだよ。お客さんにも相談してみたけど、焦るものでもないって。だから、私は私の好きな様にやろうって思って」
「……」
「思った矢先、だったんだけど。ごめん。ほんと不意打ちでなにも考えていなくて、びっくりしたらショートしちゃった、みたい」
「それだけか」
「あとは、怖かっただけ」
「怖い?」
「だって私がいま一番大切なのは」

捨てても良い。
この生活しやすく改造した家も。
なんとなく心地よく作り上げた立場も。
地下に眠る宝物も。
けれど、この人にだけは、生きていてほしい。

「知っている」

抱きしめる手が強くなる。

「この生活は続けるんだろう?」
「うん。気に入ってる」
「半分くらい絆されているだろう」
「そう、だと思う」
「もたもたしているから切り離せなくなるんだ」
「うん。でも、私、こんなこと起きたのはじめてだから、折角だし、とことん考えてみたい。よくキャパオーバーして頭を抱えているけど、でも、なんだかんだ楽しいんだと思う」
「こんな風になってもか」
「私はここだけ守ることができたらよかったけれど、あの人たちが私に向ける、どうにもならないくらいの想いを、私も持てたらいい、かなあって。待たせて悪い、気もするけれど、それこそ待たせすぎてだめだったのなら、そこまでだったって私も諦める」
「そうか」
「うん」
「なまえ」
「ん?」
「俺とサイタマがライバルだということには、驚かなかったな?」
「ひぃ!」

ぎりり、と抱きしめる腕に力が入る。
あ。
痛い。

「知っていたのか?」
「いや、だってソニック、おのれサイタマって寝言言ってたから」
「ほう、それで?」
「それに、ソニックも何も言わなかった、し。聞かれなかった、から……! ごめんって、さっきの薬吐くから、緩めて……」
「吐いたら何度でも捩じ込んでやる」
「うぐぅ、だって絶対話がややこしくなる、し……!」
「ほう?」
「痛い痛いごめんなさい」
「お前まさか俺がサイタマに勝てないと思っているんじゃないだろうな?」
「そんなのはどっちでも……」
「なんだと?」
「ちょ、も、だから、どっちにしても、絶対、死なせな、っはあ、死ぬかと思った……!!!」
「……」
「弱っている女子になんてことを……」
「……まあ、許してやろう」

かなり危なかったけれど、薬が効いて来たのか大分楽だ。
ソニックがどんな顔をしているかわからないけれど、許してもらえたのなら何よりだった。

「これからは俺に相談しろ」
「え」
「お前のことはお前より知っている」
「うん」
「それから、殺されたら困るならもっと鍛錬に付き合え」
「え、まあ、いい、けど」
「明日の晩飯はオムライスだ」
「あ、はい」

さらさらと頭を撫でるソニックは笑う。

「よし」

そうか、相談してもいいのか。
けれどそれはそれで、ソニックが確信的なことを言わないからといって、ずるいような気もした。
同時に、同じ場所で育った私たちの考え方は似ているから、きっと、ソニックの言う言葉がきっと一番参考になるのだろうかと、そんな風に思った。
難しい話しではあったけれど、ソニックも髪を解いて、眠る体制に入り、何も言わずに腕も胸も貸してくれる。
結局は優しさに甘えて、私も同じ様に目を閉じるのだった。


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2016/1/10:誰に対しても遠慮しなくていいよって。
 
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