00 プロローグ



ある日のことだった。
一人の女を怪人から守ったとき、どうやら怪人から受けた傷がひどくて倒れてしまったようだった。
けれど、怪人も目の前に倒れているし、まあいいか、とその場に倒れた。
怪人の血と肉体と、俺の血と、服の切れ端。それはもうとんでもない破れ方で、これは流石に縫い合わせられない。新調しなければなあと思ったのを覚えている。
確かに、服を新調しなきゃいけないと、思ったはずだった。
しかし、目を覚ました俺は公園のベンチですごくふわふわとしたブランケットをかぶっていた。
傷もあまり痛まないと思えば、しっかりと包帯が巻かれていて、誰かに手当されていた。その割には病院ではなく、ここは公園で。ついでに、ジャージが綺麗になっている。誰かが縫い合わせてくれたのだろうか。
よくわからないが起き上がろうとベンチに座ると、俺の頭があったところにすごく綺麗なジャージ一式が畳んでおいてあった。これを枕にして眠っていたらしい。

「ん? まだなんかあるのか?」

さらに、ベンチのすぐよこの花壇の端に、なんだかプラモデルみたいな小さなロボットが飛び跳ねていた。

「なんだこれ……」

俺が反応に困っていると、そのロボットは、ぴょん、とこちらに飛んで来て、持っていた封筒をこちらに差し出した。俺がしばらく受け取らないでいると、そいつはそれを顔面に投げてきた。封筒の角が鼻に刺さって地味に痛い。なんてことしやがる。
見かけによらず乱暴な奴だ。
俺は鼻をさすったあとに、その封筒を開けると、綺麗な文字で、手紙が書いてある。
俺に、のようだ。

「名も知らぬ、ヒーローさんへ……」

なんだか照れくさい書き出しだ。
書いてあることは特に特別なことではなく、簡単な手当をしたが後日ちゃんとした医者に見てもらうようにということ、何よりも助けてもらってありがとうというお礼の言葉、ぼろぼろになってしまったジャージを繕ってくれたこと、良かったら新しいジャージも使ってくれということ。最後にもういちどありがとうと書かれていた。
どこを探しても、差出人の名前を見つけることはできなかった。

「へへへ……」

新しいジャージを広げると、新品の香りと、どこからともなく甘い匂いもする気がした。

「ありがとうな、お前」

小さなロボットに話かけるが、話している内容をわかっているのかいないのか、一度だけ飛び跳ねた。

「こんなによくしてもらってなんか悪いな。そうだ、お前、俺がもし手紙の返事を書いたらさ、それをあいつに渡したりとかってできるの?」

ロボットは何度か目の緑色の光をちかちかさせたかと思うと、ぱったりと動かなくなってしまった。
そうとはしらずしばらく待ったが、流石に不思議に思って首を傾げたとき、びゅう、と不意に強い風が吹いて、小さなロボットが転んだところを見てようやく、電源かなにかが切れてしまったのだと気付いた。
返事を書くのは無理そうだ。
少し、いや、大分、残念。

「………帰るか」

俺は、かけてあったブランケットとジャージ、それから小さなロボットを抱え上げて帰路へついた。
また明日もヒーローになるためにトレーニングしなくては。


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2016/1/4:はじめました。がんばります。
 
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