17 エンカウント


最近なまえは留守にしていることが多い。一日の大半を機械と向き合っていたあいつだが、どうやら最近なにか気になることがあるようで、図書館でなにか勉強をしているようだ。
聞けば、「ちょっと情報収集」と笑っていた。
まあ放っておく、といっていた悩み事だが、それについてかもしれない。
放っておけない状態にでもなったのだろうか。
なんにせよ、なまえがそこまでしなければならなくなったのならば、下らない悩み、ではないのかもしれない。
いつものように鍛錬の合間になまえの家に立ち寄ると、リビングでパソコンと向かい合っているなまえを見つけた。
なまえはこちらを振り返って「おかえり」と笑うので「ああ、ただいま」と言うのだが、なまえはそれを言った後にはっと動きを止めて何かを考えるような顔をした。
俺は首をかしげながら、なまえの隣にどっかりと座った。
パソコン画面では何やらメールのやりとりをしている、明日はどこぞの企業に修理屋として呼ばれているらしかった。
なかなかでかい仕事だ。

「ソニック、明日大丈夫?」
「ああ。構わん」

そして俺はその仕事に何故か同行してほしいと言われている。
ボディガードとして、だそうだ。
なにか曰く付きの企業なのかと俺も独自のルートで調べてはみたが、特に気になる点は見当たらなかった。
暇なのでなまえの髪をいじっていると、なまえが言いずらそうに口を開く。

「あのね、ソニック」
「なんだ」
「あの、だから、その、えーっと」
「?」
「……え、と」

俺に対して歯切れが悪いのは珍しい。
明日の仕事に何か不安な点でもあるのだろうか。
こちらを向いたあとに、視線をさまよわせて俯いたなまえを抱きしめて言う。

「なんだか知らんが大丈夫だ」

なまえはびくりと震えたが、背をぽんぽんと叩いてやると、すう、と肩から力が抜けて行くのがわかった。

「ごめん、ありがとう」
「何かあったか?」
「……」

俺の問いに答えられないのも珍しい。
何か、今までの経験では消化できないことが起こっているのかもしれない。
さらさらと頭を撫でてやると、こちらを見て遠慮がちに笑った。
そんな顔をされるとどうにも胸のあたりがずきりと痛む。
笑った右頬をつねってやった。

「いたいよ」
「だろうな」

更に力を入れると、なまえも同じように俺の右頬をぎりりとつねった。

「なにをする」
「こっちの台詞」

ぱ、と離して今度はごつくてバカみたいに重いヘッドフォンを奪い取る。
下手に触ると、地下で眠っているロボットが勝手に飛んで行ったりするこれを、なまえは取り返そうと手を伸ばすが、とどかなくて、べちゃりと俺の上に倒れ込んだ。

「ふっ」

笑った俺を見上げて、なまえも笑ったので、そっとヘッドフォンを返してやった。

「なんだか知らんが、俺には相談できないことなのか」
「ちょっと、ね」
「そうか。まあ、好きに生きろ。何を選んでも俺はお前の味方でいてやる」

なまえのこの感じは、俺が随分前になまえにきちんと気持ちを伝えるべきか迷った時の反応に似ている気がした。
結局こうして行動で、お前が大事で仕方が無いのだと示すばかりだ。
こいつには俺しかいなかった。
今は、もしかしたらそうではないのかもしれない。
そこまで考えると、ぱた、と手の上になにか水が落ちた。

「……何故、泣いている」
「え、な、泣いてない」
「泣いているだろう……」
「う、っ、ほら! 泣いてない! うどん食べに行こう!」
「……」
「うどんがたべたいです!」
「お前が作ったほうがう」
「あああああ、今そういうのやめて、折角止めたのにまた泣く! 今日、忙しくて、晩ご飯の準備、してない!」
「……そうか、それなら仕方が無いな。仕事は終わったのか」
「大丈夫。もう明日時間に行くだけ」
「それなら、行くか」
「行こう」

唐突になまえが流した涙の意味はわからなかったが、何故かなまえが元気そうではあるので、外食の準備をはじめる。
どこのうどん屋へいくかなど適当な会話を交わしながら、玄関を出ると、勝手に鍵がかかる。
少し前にオートロックに改造していた。
俺となまえが前に立つとそのまま鍵が開く。網膜認証らしい。
いつもの流れで門を出て、なんとなく、先ほどまでの挙動不審が気になって手を繋いでおくかと手を伸ばした。

「あっ!!!」

声は、俺でもなまえでもない。
同時に振り返ると、どこかでみたハゲ頭がこちらを指さして震えていた。

「え、お、お前ら知り合いだったの!!?」

知り合いどころではない。
いや、それより。

「サイタマ……!!」

ざわり、と俺の中の闘争心が燃え上がるが、なまえは隣でじっとどう立ち回るべきか考えているようだった。おそらく、止めにはいるだろうが。
止められる前に、俺はサイタマに突っ込んで行く。
腰の刀を抜いて、振りかぶる。
驚いている今ならば。

「っ!?」

しかし、刀は空を切る。
いない。どこへ。

「なんだかわかんねーけど、ちょっとおとなしくしてろ」

殴られる。
しかし、その一瞬前に、なにかが腰のあたりに突進してきた。
そのせいで、そのまま前に倒れる。
だが、そのおかげで、サイタマのパンチも空を切る。

「なまえ!?」

声はサイタマのもので、俺は起き上がると、なまえの申し訳なさそうな顔が視界に入った。
サイタマを背にして、なまえは言う。

「ごめん、でも、ここでは」
「いや。そうだな。お前ならば止めに入ることはわかっていた」
「な、なに? 思ったより親しい感じだけど……」

俺となまえは服についたホコリを払ってから、サイタマのほうへ向き直る。

「悪いがお前との決着にはまだ早い。次は必ずお前を殺す」
「なあ、なまえ。これから出かけるのか?」
「え、まあ、うどん食べに行こうかって」
「マジで? 俺もそうなんだけど。一緒に行こうぜ」
「話しを聞け。それになまえはお前とは行かん」
「あの」
「要はなまえが誰と行きたいかだろ」
「俺と行く予定だったのに貴様がしゃしゃり出て来たんだろうが」
「え、と」
「行くぞ、なまえ」

俺はなまえの手を握って歩き出すが、サイタマは平然となまえの横に並んだ。

「なー、どこのうどん屋行くんだ?」

全力で困っているなまえを見ていると、悩みの種がわかったような気がした。


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2016/1/10:エンカウントした
 
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