16 これがモテキというやつか?


この無人街は繁華街からは遠くて不便だし、怪人もよくでて迷惑だけれど。
故にいいこともたくさんある。
何よりここは静かで人目がない。
ソニックは気軽に遊びにこられるし、私がどれだけ家を改造してもバレない。
作業場の片隅に地下へ繋がる階段がある。
ここまで来ると、外は朝なのか、夜なのか。
時間さえもわからない。防音壁がしかれているせいもあって、音もしない。
電気はあるから明るいが、特にライトで照らされたそれは、我ながらすばらしい。
地下の一部屋の中央にあるそれは、真っ黒いボディに深い海のような青色のラインが入っている。
これはレプリカではない。
私の技術を全て詰め込んだ、ロボット。
正面に座ってそれを眺める。
これを使って別に何がしたいというわけでもない。
ただ、遠い昔に、本で見た。
外の世界のことを全く知らない、暗い世界に居た私に、土産だと言ってみせてくれた。

「そんなものがいいのか?」
「これがいい」

幼いソニックは心底不思議だという顔をしていたけれど、私の目にはこれがすごくかっこよく映ったのだから仕方が無い。
それがきっかけでソニックは、壊れたトースターやらテレビやらを拾って持って帰ってくるようになった。
プラモデルを持って帰って来たこともある。
冷蔵庫を抱えて帰って来たときには流石に腹を抱えて笑ったものだ。
今考えてみれば猫のようだ、獲物を拾って来て褒めてくれとすり寄ってくる。

「はあ」

ため息は、最近の私の周りについて。
ゴーストタウンの師弟はどうしてか私の周りをうろうろとしていて、ついに弟子までおかしなことを言い始めた。
私は、困ったことに彼らが至極真面目にそれを言っているのだと知っている。
怖いくらいに真っすぐにこちらへ向かう。
「好き」だと言う言葉を私はどうする気もない。
そもそも、考えたことが無い。
付き合う気はないと何度も言ったが、まったく気にする気配がない。
サイボーグの方に至っては離れれば離れるほどに深く踏み込んできてどうにもやずらい。
好意自体は悪いものではなく。
けれど、手放しに喜べる程彼らのは軽くない。
機械と、男と言えばソニックとしか交流がなかったせいで、こういうときどうしたらいいのかさっぱりわからない。
結婚?
付き合う?
なんだろう。一緒に居たり手をつないだりということ?
それって、ソニックとの関係とどう違うんだろう。
ソニックは確かに特別で、このままずっと遊んで欲しいけれど、恋人では、なくて。それに、アニメとか漫画とか、ドラマとかから得た情報によると恋人以外と手を繋いだりするのはなんだか違うらしい。
となると、例えば私がサイタマさんやジェノスくんとそういう仲になったとすると、ソニックとはあまり一緒にいられなくなるのだろうか?
下手をしたら会えなくなる?
誰かと付き合う、と言うよりも、そちらの方がずっと考えられなかった。
ならばソニックと付き合っているという状況なのだろうか?
え? 彼は親友で理解者で……。
そもそも誰かを選ばなければいけないのか?
彼らの言う、好きって?
私はあの人たちと付き合いたいと思っている? 思っていない?

「……」

今日も答えは出ないのだろう。
ごろりと床に転がると、細部にまでこだわったロボットの色彩にほれぼれするばかり。

「仕事しよ」

立ち上がって、外へ出る。今日はたくさん依頼が入っている。
ちょうどいい。ほとんどの依頼は主婦だ。話しを聞いてみよう。

◆ ◆ ◆


「え? どうして結婚したかって? ああ、私はほら、ギリギリまで相手がみつからなくてねえ、適齢期過ぎそうで焦って結活したの」
「どうしたの、なまえさん。え? 旦那のこと? ええ。愛しているわよ。今では太っちゃったけどかっこ良かったのよ」
「なまえさんが来てくれたらもう安心ですねえ。え? 相談? 好きな人がいるんですか? あら若いですねえ。わたし昔から背が高いひとが好きだったから、結婚するなら絶対背が高い人って決めていたんです」
「なに言ってんの。あんたそんなすっごいんだから、結婚なんてしなくていーわよ、ろくなもんじゃない。付き合ったらみんな一緒。付き合うまでが一番楽しいのよ」
「へえ、モテるのね。なまえさんって。そうねえ思ったようにいかないことばかりだけれど、子供達はかわいいわ。そう思わない?」

いつもより少し長く話をした。
お客さんにこんな話をしたのははじめてだったけれど、思ったよりもこういう話は好まれるようで、皆笑顔だった。もしかしたら、大切にしていると思っていたお客さんに大事にされていたのは、私の方だったのかも知れない。
仕事を終えた帰り道で考えるのはそんなこと。
なにも私を大事にしてくれているのはお客さんだけじゃない。
サイタマさんもジェノスくんも、私があまり自分のことを聞かれたくないのだとわかれば、それ以外の方法でと距離を詰めてくるし、嫌だと思うことはしない。あの人たちの笑顔が優しいことを知っている。
ソニックは私の体の一部のような存在。
大切で、大好きだ。
それとこれとは、どうやら違うようで。
最後に修理へ向かった家のおばあちゃんは言った。

「随分焦っているのね」

壁掛け時計が故障したのだそうだ。

「大丈夫よ。貴女はとても素敵」

こちらで修理していたものを、届けに来た。
動いているそれを見て、大事そうに時計を抱きしめていた。亡くなった旦那さんとの思い出の時計らしい。

「安心して、ここがいいと思う場所へ進めばいいのよ」

私はなまえ。
趣味で家電修理をやっている元忍者。
ちゃんと考えよう。
納得できる答えが見つかるまで。


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2016/1/10:目の前のものについて真剣に考えだす。たぶんジェノスのせい。
 
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